経営力の訓練はいつどこで受けるのか
2004年9月、米総合物流企業バックス・グローバルの日本支社であるバックス・グローバル・ジャパンを激震が襲った。日本支社長以下、取締役会のボードメンバーが不正会計の責を問われて一斉に解任されたのだ。
後継支社長に指名されたのは管理本部長だった伊藤公昭氏。当時、クライアントのロジスティクス業務全般を代行するロジスティクス・アウトソーシング、そして財務、情報システムという主要部門を統括する立場にあったが、役員経験はまったくない。
「外資らしいトップ交代劇と言われればそうなのですが、アジア地区を統括するシンガポール支社のイギリス人ボスが乗り込んできて、ある日突然、『明日から君がやれ』の世界ですから。現場の業務のことはわかっていても、組織のトップとして何をするべきなのか、まったくわからない。正直、不安でした」と伊藤氏は振り返る。
社長に指名された際、ボスから最初に言われたのは、「サクセッション・プランを考えろ」だったという。サクセッション・プランとは重要ポストの後継者を指名し、次代を担う人材を計画的に育成する制度のこと。アメリカでは後継者育成はステークホルダーに対する経営トップの当然の責務だ。
しかし、自身、トップの心得を学ぶ機会もないまま社長に抜擢された伊藤氏にとっては、「それどころではない」というのが本音だった。
サーベンス・オクスリー法(米SOX法)のプロセス監査に伴う財務監査で問題が発覚し、この償却のために社長交代があった四半期業績は赤字に転落。また前経営陣が断行したリストラのために優秀な人材が流出し、社内のモチベーションは低下していた。
「数字を上げる以上にやるべきことがあると感じていました。外資特有ですが、売り込んで入社してきたものの、結果を出せずに出て行ったり、少し結果を出すと引き抜かれてしまったりと、どうしても人材が寄りつかない。いい人材を集め、成果にきちんと報いるような人事評価制度や給与体系をいかに構築し、運用してゆくかが一番の課題でしたね」