コストカットと業績2つの統合シナジーを両立させるには
今やM&Aがビジネスの現場で日常的に語られるようになった。新聞やテレビは毎日のようにM&A関連のニュースを報じている。M&Aが経営ツールの1つとして当たり前のように行われているため、もはやM&A自体よりも、統合後にシナジーを創出できているか否かが注視される時代になった。
その意味では、シナジー創出に対するマーケットの期待値と判断軸が昔に比べて格段に厳しくなったといってよい。過去には10年、20年という長いスパンで組織・人事統合を果たした合併例もあるが、近年のマーケットがそれを許すはずもない。統合後の早い時期に明確なシナジーを出せないと、経営陣は社内外から厳しい批判を浴びてしまう。
一方、統合の過程で怖いのは、「重要な人材」が次々と去っていくことだ。彼らがどういう状況で辞めるかというと、統合によるシナジーが感じられず、報われず、将来像が描けないと感じたときが多い。組織内の上下のバランスと意思疎通が悪く、意思決定の遅れから一体感が生まれず、期待された成果が出ないという状況である。「うちはコストカットばかりで社員の気持ちを考えない。これでは新製品が出せるわけがない。経営陣はわかってない!」──優秀な人ほど問題点を的確に見抜き、それを放置する上司や経営陣に対する怒りから会社を辞めていく。
特に同じような規模と業績の企業同士の統合は難しい。上から下まで「ウチのやり方が効率的で正しい」と互いに主張し、相手を怒らせ、壁や不信感を増大させてしまうからだ。
従ってシナジーを創出する道筋を早く見つけることが重要になる。「シナジー」の定義は、個別案件の事情によって異なるが、大きく分けて、「アップサイドシナジー」(マーケットシェアの向上、新製品の開発、クロスセル等による売上高の増加)と「コストシナジー」(コスト構造の変革による費用の減少)の2種類に分類されよう。その両方を実現し、かつ維持し続けてこそのシナジーだが、実は、その両立は至難の業である。
コストシナジーの実現は、人件費や経費の削減等によって短期間で一定の改善目標を達成しやすい。ところが、アップサイドシナジーの実現は1年や2年で必ずしも実現できるものではない。その実現のためには、一定の期間が必要だ。そして、この2つを両立させるのは、洋の東西を問わず非常に難しい。決して日本企業だけの課題ではないのだ。
時折、コストシナジーの実現だけで、「統合効果が出た」と勘違いしてしまうケースがあるが、それは間違いだ。本当に必要なものは、アップサイドシナジーとコストシナジーの両立なのである。