私どものクライアントである某社では、統合の準備段階から企業文化の違いを外の視点で認識しようと努めていた。新しく企業文化をつくるために、まずは顧客やマーケットとの関係をどう捉えているのか、お互いの企業文化を理解することに1年以上の時間をかけた。企業文化の違いを乗り越えて、新たに「つくる」ことができるかを統合判断の基準にしたのである。

具体的には、準備段階で実験的な事業提携をして一緒に仕事をしてみたり、人材の交流を行ったりして相互の理解を深めていった。結果、統合後もスムーズにノウハウの共有化を進めることができ、現在は新会社内で人材交流を活発に進めている。シナジー創出のポイントは外の視点で事前準備をし、新たな企業文化をつくるための処方箋を持ち、実行に移したことにあるといえるだろう。

このほかにも、シナジーを継続的に創出している素晴らしい統合事例にいくつも関わることができた。彼らの統合成功のポイントは、両社の経営トップが準備段階で完全に意思統一し、統合後も明確で強い意志を発信し続け、早い段階から人材交流を行ったことにある。早くから新しく「つくる」議論を進めていたのである。これは、経営トップがシナジー創出に向けて組織・人事の重要性を重視している企業の特徴である。

ここへきて、組織・人事の統合マネジメントを通したシナジー創出の重要性に気づいた“M&A人事感応度”の高い会社が増えている。M&Aを経験して経験知が高まった結果であり、歓迎すべき流れであろう。

(辻 和成=構成)