「こんなに頑張っているのに、認められない」

なぜ、職場でトラブルを起こす人は、またトラブルを起こしてしまうのでしょうか。その人が抱える「心のトラブル」が、人間関係を通じて表れているからです。

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職場の人間関係について考えてみましょう。うまくいっている人間関係とは、自分がやりたいことと、他人からの期待が合致している関係です。例えば、リーダーシップの持ち主だと自任する人が、周囲からも「あの人にはリーダーシップがあるから、それを発揮してほしい」と期待されている場合は、非常にうまくいっている職場だと言えるでしょう。

反対に、自分は「リーダーシップを見せたい」と考えていながら、周りからは「リーダーではない」と思われている場合は厄介です。誰にも求められていないのに、一生懸命になってしまい、あまつさえ「自分はこんなに頑張っているのに、認められない」と怒りを感じてしまう。このような「自分の能力」を勘違いした人間が、えてしてトラブルを起こしてしまうのです。

人と人とを繋げる能力のあるタイプもいれば、最後のツメの仕事で集中力を発揮するタイプもいます。そのように自分の適性を社会に適合できれば、問題は起こらないのに、情緒的未熟さゆえに自分の価値を見誤っている人が、トラブル・メーカーになってしまうのです。もちろん、その人は能力がないわけではなく、むしろ有能でさえあるかもしれません。しかし、社会の中で、まだ自らの心理として自分がどうすれば生きるのかが、わかっていない。心の内側が成熟していないのです。

社会心理学者のエーリッヒ・フロムは「神経症的非利己主義」という言葉を用いています。「非利己主義」つまり自分のためではなく、他人のために行動をしている。一見するとそのような利他性は好ましいように見えますが、「神経症的非利己主義」の人間は、相手のことを理解できない、望むものがわからないのに、闇雲に一生懸命に「他人のため」に行動してしまっている。