※本稿は、勝部健太郎+無印良品コミュニティデザインチーム (著)『新しい買い物 理想の社会を買い物でつくる。』(KADOKAWA)の第3章「『新しい買い物』は文化をつくる」の一部を再編集したものです。
ファイルボックスが「フライパン立て」に
勝部健太郎(ユニット・ワン代表):なかには、本来の意図とちがった用途でつかわれることをよく思わない企業もあるようですが、無印良品の場合は、むしろ歓迎しているような印象すらあります。
川名常海(良品計画 WEB事業部長):無印良品の商品は、たとえばスタッキングシェルフにしてもそうですが、シェルフの形状は決まっているけれど、そこにチェストだったり、バスケットだったり、ボックスだったりといったモジュールを組み込めるようになっていて、好きなつかい方をしてもらうことを前提にしているものが少なくありません。
もともとそういう考え方があるから、本来の意図とはちがったつかい方を受け入れやすい土壌はあるのかもしれません。
勝部:そのあたりは、すでにお話しした「共感性」にもかかわる部分だと思うのですが、無印良品の場合は、企業としての価値観や思想が「買う人」にうまく伝わっているという印象があります。それが共創をあと押ししているんじゃないでしょうか。
いくら自由につかってくださいと口でいっていても、実際の企業の考え方がかたくなだったりすると、「買った人」はそもそも工夫してつかってみようかなという気持ちにならないわけですから。
「カスタマイズ」と「共創」は別物
川名:そうかもしれません。すでにお話ししたように、ぼくら無印良品は、企業として「資本の論理」だけにもとづくのではなく、自然体であることに重きを置く「人間の論理」を大切にしています。いま勝部さんがおっしゃったように、たしかに無印良品の商品を買ってくださっている人の多くは、意識的にせよ、無意識的にせよ、そういう価値観や思想の部分に共感してくださっている、という実感はありますね。
そのいっぽうで「買ってくださっている人たち」は、「すっきりとした空間で暮らしたい」とか、「余計な成分が入っていない化粧品をつかいたい」とかという個人的な理想をもっていて、商品を通じてその実現をはかろうともしていると思うんです。「共感性」の部分を大切にしつつ、その実現に貢献するためには、企業としての商品提供のあり方が問われるところですね。
勝部:たしかに。そう考えると、「新しい買い物」では、企業と「買う人」のかけあいが大切なのはまちがいないけれど、それはいわゆるカスタマイズとはちがうといえるかもしれません。
カスタマイズは一見すると、「買う人」とのコラボで新しい価値をつくっているように思えますが、実際のところは、企業があらかじめ想定した範囲内のバラエティです。結局のところ、企業主導の価値創造の域を出ていないものが少なくないし、企業と「買う人」との共創とはいえないと思います。
クルマなら、外装の色を選んだり、内装に凝ったチョイスをしたりすれば、自分好みの商品に近づくかもしれない。でも、ほとんどの場合、それで実現されるのは企業が提供する範疇の価値であって、その人のライフスタイルとして新しい価値をもたらす、とまではいきません。
川名:「生活者の価値観が多様化しているのだから、商品展開にもいろんなバリエーションを設けるべきだ」という考え方もありますが、そういう対応の仕方がすべてではないということですね。