ブームは「買う人」との共創から

勝部:「新しい買い物」が当たり前になる時代には、従来のようにマス広告で力まかせにアピールするようなやり方はちょっとしっくりきませんよね。価値創造の仕方が企業主導でなくなってきているわけですから。

川名:それはそうかもしれませんね。実際、ぼくらが扱っている商品についても、ブームの起こり方が以前とはちがってきている印象があります。というのは、「買う人」のあいだから、自然発生的にブームが起こることが増えてきているんです。

近年でいえば、「体にフィットするソファ」という、ストレッチ素材のニットのなかに大量のビーズが入ったクッションのようなソファがそうでした。無印良品の「モノづくりコミュニティー」というユーザーの投票を通じて商品開発をおこなう取り組みから生まれたもので、発売したのは2003年。当初は売れ行きも順調で、想定を上まわる売り上げだったのですが、10年近く経つうちにそれも伸び悩んできていたんです。

ところが、2013年にネットで、このソファが「人をダメにするソファ」としてもてはやされはじめて、状況が一変しました。

勝部:「人をダメにするソファ」とは、また奇抜な評価ですね。

無印良品「体にフィットするソファ」。

2014年の春ごろには生産が追いつかないくらいに

川名:ソファの形状が自由に変えられるので、どんな体勢にもしっくりくるんですよ。だから快適で、そこから動こうと思わなくなって、やるべきことがきちんとできないダメな人間になるくらい居心地がいい、という意味です。公式につかえるフレーズではありませんが(笑)、ソファの機能をうまくユーモラスにいいあててもらっているな、とは思います。

勝部:ネットで生まれたそのフレーズが、どんどん広がったわけですね。

川名:そうです。最初はブログからだったのですが、ソーシャルメディアに飛び火して、ついにはテレビでも取り上げられました。それで文字どおり人気が再燃して、2014年の春ごろには、生産が追いつかないくらいになったんです。

勝部:ブームをつくるのは、ずっと広告キャンペーンの役割でしたよね。大きな予算をかけて、メディアでバンバン広告を流して、アピールして、と。でも、それも「買う人」のなかから生まれるようになってきているのではないか、ということですか?

川名:あくまで肌感覚で、そうかもしれないというレベルの話ですが。ただ、ブームはそもそも押しつけるものじゃないから、そのほうが自然といえば自然です。本来あるべき姿に戻ろうとしているといえるかもしれません。