交渉に行き詰まったとき、どうすればいいか。ひとつの解決策は「赤の他人=第三者」を巻き込むことだ。目先の利害だけにとらわれていると、問題解決は遠のいてしまう。コミュニケーション・アナリストの上野陽子氏が、そんな含蓄のある「アラブの古い話」を紹介する――。

第三者の介入による秀逸な問題解決策

最近のニュースをみていて、「これでは交渉はまとまらないだろうな」と思うことがある。利害関係者同士がやりとりを続けるだけでは、対立が深まる可能性だって否めない。話がまとまらないときには、第3者を介入させることで思わぬ解決策がみつかることもある。

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交渉の場面にでくわしたとき、秀逸な解決方法として学生時代に友人から聞いたアラブに伝わる古い話を思い出すことがある。3人兄弟で遺産を分割するという内容だ。一見パズルみたいで複雑に感じられるので、欧米ではbrain teaser(頭の体操)として使われるし、日本でも小学生向けの算数問題として紹介されることも多い。ちょっと滑稽にみえるかもしれないが、すこしお付き合いいただきたい。

兄弟3人で分割する遺産とは、ラクダ17頭。遺言は「ラクダ17頭の2分の1は長男に、3分の1は次男に、9分の1を三男にゆずる」というもの。分割内容をまとめると以下のとおりだ。

<遺産分割>
遺産のラクダ17頭
長男 2分の1
次男 3分の1
三男 9分の1

17頭を3人で分けたら、整数では割り切れない。これではラクダを切り刻むことになると、兄弟ゲンカがはじまった。そこへラクダに乗ってやってきた賢者が、こんな風に提案する。

「なるほど、それでは私のラクダを差し上げましょう」

この賢者が「第三者」である。これでラクダを切り分ける必要がないばかりか、ちょっと不思議なことが起こった――。

賢者から1頭もらった兄弟は、18頭を遺言にしたがって分割する。これで2と3と9の最小公倍数の18になるから、きれいに割り切ることができる。3人は喜んで分割をはじめた。

2分の1+3分の1+9分の1

18分の9+18分の6+18分の2=18分の17

ちょうど17頭が振り分けられたから、余りの1頭は賢者に返して、めでたし、めでたし――あれ? じゃあ最初から17頭でよかったのか……。

と、パズルのようでありながら、どこかまぬけな話でもある。割り切れない数字でラクダを刻むことなく、数字的に割り切れる数から分けたという話だ。