余った18頭目で“納得”の交渉成立
17は整数で割り切れないし、誰もが損をしたくないから計算がややこしくなる。(長男は、2分の17頭が配分。余りの配分でラクダとしてはありえない2分の1頭をもらえば、2分の17+2分の1で、結局9? ……など細かい計算は各自でどうぞ)。
つまり配分はこういうことだ。
次男(3分の1)6頭
三男(9分の1)2頭
合計17頭
厳密な数字上の配分は遺言通りではないが、頭数としては妥当。割り切れない17という数字にとらわれた上、自分の取り分を減らさないようにしたことがケンカのもとだった。ここで交渉が成立したのは、賢者が18頭目を差し出してくれたから。その結果、誰もが“納得”できる内容になった。
自分の立場に固執した「こうあるべき」という思い込みを疑って、一歩引いてみることで、違う考え方もみえてくる。そして、違った考えもあることを理解するだけで、わだかまりも解けて、問題もすんなり解決しやすくなるものだ。
……と、わかってはいても、自分の考えを変えるのはなかなか難しい。
客観性重視の「交渉の4原則」
例えば、R.フィッシャー氏とW.ユーリー氏は『ハーバード流交渉術』で、こうした交渉での原則立脚型交渉を提案している。少し前の本ながら、感情的にならずに人と問題を切り分けるなど、4つのポイントは次のとおり。
■People(交渉相手):人と問題を分離する
■Interests(利益・要求):立場ではなく利害に焦点を合わせる
■Options(選択肢):互いの利益になる可能性のある選択肢を出す
■Criteria(基準):結果は客観的基準によるものとする
好みではなく、互いの利害に焦点をあてて客観的に考えていく。あらゆる問題解決に必要な視点といえるだろう。そして、ここに旅人のように中立の立場で折衷案を出してくれる人が現れたなら、和解案の発想もしやすくなる。
目先のことだけに気をとられて広い視野を失うと、人を攻撃したり反撃したりしたくなるものだ。人は腹を立てるほどに雄弁になる一方で、あとで悔やむのもよくあること。世界情勢を俯瞰したときに、一国の大統領やリーダーがこんな姿をさらし、18頭目のラクダどころか16頭に減らして、さらに事態をややこしくしていることだってある。
旅人が通らなかったなら、自らがちょっと離れて第三者の立場で状況を眺めることで、旅人の役割を果たせるかもしれない。一歩引くことで問題の核心を見つけやすくなり、一義的な考えかもしれないなど、自覚を促せるようになる。
ラクダの遺産相続問題の解決に一役買ったのは、最小公倍数という共通項目を見つけ、数字と現実のものを切り分けた上で客観的に分配することだった。少し離れてみる、時間を置く、高い所から全体を俯瞰する……。問題にあわせて1頭のラクダのような存在を見つけることが、解決の糸口のひとつとなりそうだ。
【参考資料】
ロジャー フィッシャー、 ウィリアム ユーリー『ハーバード流交渉術』(知的生きかた文庫、三笠書房)