あなたはどうして話すのだろう。人を叱るためか、物を頼むためか。最も重要なことは、「誰に」「なにを」ではなく、「なぜ話すのか」である。相手や場面に応じ、目的をみつめなおすことで、話し方は劇的に変わる──。
「挨拶だけでも」は距離を遠ざけるだけ
お客様との関係づくりは、会う前から始まっています。まず気をつけてほしいことは、「会う意図を隠さない」ということです。「ご挨拶だけでも」というフレーズは説明になっていません。目的を隠せば隠すほど、人は猜疑心を抱くものです。
相手のサービス精神につけ込み、貴重な時間をもらったにもかかわらず、ダメな営業マンは「とりあえず聞いてもらうだけでいいので」と一方的に商品の売り込みを始めます。このやり方が通用するのは「しがらみ」のある取引先だけです。
まずは「ビジネスで会いたい」という意図を端的に伝えてください。「定期的にお仕事をしたい」「予算にあえば購入してほしい」。目的を正直に伝え、相手が興味を示したところで、はじめて商談に入ります。
いい関係を築くためには、お客様に関心を持つことです。営業の仕事をしているのに、「取引先に興味がない」という人は問題外です。営業マンの仕事は、相手に関心を持つことだと思ってください。誰でも人から関心を向けられるのは嬉しいものです。私の場合、「ビジネスを超えて、個人として関心を持っていること」を伝えるため、「すみません。今日は仕事をお会いする口実に使ってしまいました」と挨拶することがあります。
そして相手を褒めます。商談だからといって「何かお困りのことはありませんか」と直接聞かれると相手も困ります。「繁盛されてますね」と話を向ければ「本当はそれほどでも」と返ってくる。謙遜は本音を引き出すチャンスです。「実はこんな問題があって……」という話に発展するかもしれません。
「御社の受付はとても礼儀正しい。なぜですか」「この部屋の色調は落ち着きますね」など、相手の気配りやこだわりを褒めるのもいいでしょう。私の経験上、特にオーナー経営者は、細部まで気を遣っています。
ときには、「いや、そんなことないですよ」とやんわり否定されることもありますが、かといって怒られることはまずありません。むしろ「細かいところまで目が届く、感度の高い人間だな」と評価されます。