もう「規模の拡大」で競争力を上げられる時代は終わった。ある印刷会社は、生き残りをかけて小さな企業の「買収」を続けていたが、経営が頭打ちに。大手への「事業売却」に方針転換することで、成長戦略を切り開いた。その背景には「ラクスル」という革新企業の脅威があった。M&Aのプロが、これからの中小企業の生存戦略を解説する――(全4回)。
会社を売ることが自社の成長になる!?
M&Aによる成長戦略というと、多くの人は買う側の立場で考えます。買う側は、買うことによって売る側の顧客やリソースを獲得できるからです。
では、売る側にとってはどうでしょうか。
じつは、それは売る側から見ても同じです。つまり、売ることによって自社を成長させることが可能なのです。
ところが、「M&Aで会社を売ることが、自社の成長になる」と聞くと、経営者の方々はたいてい唖然とした表情になります。なかには怒りだす方もいます。「売ること」が自社の成長の起爆剤になるという事実をご存じないのです。
あるいは、次のように考えるオーナー経営者は多いかもしれません。
「当社は中小企業なので、買収できる会社は限られている。M&Aをしてもそれほど大きなメリットはないのではないか」
オーナー経営者はさすがに強者揃いです。この感覚は少なからず当たっていて、小さな企業が小さな企業を買っても成長スピードが劇的に速まるわけではありません。
かつて企業は、小売業、製造業というように、それぞれのカテゴリーのなかで競争をしていれば済みました。しかし、いまや小売業の会社が製造の機能をもったり、あるいは製造業の会社が小売の機能をもって競い合う時代。
いうなれば、ビジネスにおける「異種格闘技戦」が行われている状況です。
では、そのような状況に対して、中堅・中小企業には為す術がないのでしょうか。
答えはノーです。
買って成長することが難しければ、売って成長するという戦略があるからです。