従来のモデルでは、革新企業に駆逐される

このラクスルのまったく新しいビジネスモデルに衝撃を受けたのが、私たちのお客様であるA社長だったのです。

自社が同じような規模の同業会社を買収して大きくなったとしても、従来のビジネスモデルのままでは、いずれラクスルのような革新企業に駆逐される――。

そうした危機感から、「買うことによる成長戦略」に疑問を抱くようになったそうです。

そこで私たちはA社長に、ある新興の大手企業グループに入ることを提案しました。その会社は全国的に健康関連事業を展開しており、チラシなどの広告印刷を内製化したいというニーズをもっていました。

一方、A社長の側には、異業種の会社と組むことで、これまで扱う機会のなかった案件を受注できるチャンスが広がるというメリットがありました。

こうした両社の考えが合致してM&Aが成立。A社長が率いる印刷会社は、大手のグループに入ることによって安定的な経営基盤を手に入れることに成功し、ラクスルという黒船に脅かされるリスクは大きく減りました。

ただ、私がみなさんに知っていただきたいのは、副次的なところで生まれた大きなシナジーです。

印刷業は印刷物のデザインを行うことも業務の一つです。A社は地元の専門学校を卒業した優秀なデザイナーを数人抱えていましたが、地元で受注する案件はパターンが決まったものが多く、デザイナーとしてチャレンジの機会が少ない環境でした。

しかし、大手のグループ入りした後はデザイナーを東京の親会社に派遣したり、海外に留学させたりできるようになりました。M&Aによって彼らの活躍の場が広がり、外で得た経験やノウハウを社内に還元する流れができたのです。