買う成長戦略にも弱点がある
前回、会社を「売る」ことで、自社の成長にドライブをかけることに成功したA社長の事例をご紹介しました。つまりは、会社を買うのも成長戦略ならば、会社を売るのも成長戦略というわけです。
それでも、買う成長戦略と売る成長戦略、どちらにせよ成長につながるのであれば、やはり買ったほうが気分がいい――このように考えるオーナー経営者は少なくないでしょう。
たしかに他社を買うことは成長戦略の有力な選択肢の一つです。
ただ、買う成長戦略にも弱点があります。
他社を買うときには、通常は自社より時価総額の小さな会社を買収先として選択します。
ところが、いまは産業構造が変化するスピードが、おそろしく早い時代です。そのため、中堅・中小企業の場合、買収を実行したにもかかわらず、産業構造の変化に追いつけずに、淘汰されてしまうおそれがあるのです。
仮に、売上高20億円の会社が売上高5億円の会社を買えば、単純な足し算で売上げは25億円になります。少し規模が大きくなったので、次は背伸びして売上高10億円の会社を買えるかもしれません。グループの売上げは計35億円になります。
売上げ20億円の会社が数年で35億円まで伸びれば、すばらしい成長といえます。オーガニック・グロース(自社の内部資源を活用した自然な成長)に比べれば、成長のスピードもずっと速い。
しかし、昨今の産業構造の変化に対応するには、自社によく似た会社を買収して少しずつ成長していく従来のM&A戦略ではパワー不足の可能性が高いのです。現実はそれでは追いつかないスピードで激変しています。
では、なぜ中堅・中小企業は、買う成長戦略で産業構造の変化に対応できないのか。
順を追って説明しましょう。