野球やサッカーのリーグ戦でいえば、業界再編は地区リーグです。そこで勝ち上がった企業は、業種の垣根がない全国リーグでしのぎを削ることになります。

ここで最初の問題――中堅・中小企業の「買う」成長戦略が抱える弱点――に立ち返ってみましょう。

多くの大企業は、すでに地区リーグを勝ち抜いた状態です。全国リーグを戦うため、越境型のM&Aを積極的に仕掛ければいいでしょう。

一方、中堅・中小企業はまだ地区リーグで戦っている状態です。全国リーグに出るために、業界再編型のM&Aで必要な地盤をつくろうにも、時間がかかります。

その間に市場は、多機能化した大企業に押さえられてしまうでしょう。

買って地区大会で戦うか、売って全国大会に行くか

では、中堅・中小企業は全国リーグを戦うことをあきらめざるを得ないのでしょうか。

答えは、ノーです。なぜなら、「売る」成長戦略が残されているからです。

もちろん、M&Aで株式を売るとしても、同じ業界内の再編型ではあまり意味がありません。すでに越境して事業を展開している大企業や、自社が加わることによって越境が可能になるパートナーと組むことで、自社も越境のチャンスをつかむことができます。

さらに、中堅・中小企業にとっては、自社だけでは超えることが難しい問題があります。

企業が新しい産業構造のなかで成長していくには、先に紹介した4つの機能を備えることが大切ですが、じつは4つのなかでもとくに重要な機能があります。それは「価値情報」、いわゆるデータの収集・蓄積・分析です。

これからの産業構造は、供給者側ではなく消費者(ユーザー)側の論理で動きます。ユーザーのニーズを把握して、それに応えた企業が市場を制します。もちろんユーザーの声を聞くことは、産業構造が変わる前から大事だと考えられてきました。

ただ、昔と現在では決定的な違いがあります。ITの活用です。