買って成長することが難しければ、売って成長するという戦略がある――。

私がこの戦略の有効性に気づいたのは5年ほど前、2012年のことでした。

これまで私は、中小・中堅企業のM&A仲介における草分け的存在である日本M&Aセンターで、売り手と買い手のマッチングを専門に行う事業法人部の責任者として、100社を超えるM&Aを手がけてきました。

その際、買い手になるのは、他社を買収して成長したいと考える企業。売り手は、後継者不在などの事情で事業承継に悩んでいる企業が中心でした。

大手に売って成長を加速させたい

あるとき、当社の仲介で複数の会社を買収してきた企業の社長からお呼びがかかりました。「また新たに会社を買いたいというご相談だろうか」と想像しながらうかがってみると、返ってきたのは予想外の言葉でした。

「竹内さんのおかげでいろいろな会社を買収でき、成長に弾みがついた。でも、それでも大手にはなかなか追いつけない。そこで、会社を大手に売って成長を加速させたいと考えたのだが、どうだろうか」

青天の霹靂でした。

そのころ当社に売り手としてご相談にいらっしゃるのは、後継ぎがいないため他社に譲渡したいという方がほとんどでした。会社を存続させていくための売却です。

しかし、その社長は「成長をもっと加速させたいから」というポジティブな理由、すなわち会社の存続だけでなく、会社の発展のために株式を譲渡したいというのです。

まさに逆転の発想です。