A社長は、会社を売ることによって自社の成長の可能性を切り開くことに成功しました。

とはいえ、頭では理解できても、「売る」という言葉にひっかかり、拒絶反応を示すオーナー経営者は多いことでしょう。

売るというのは、自分が保有する株式を手放すことにほかなりません。これまで手塩にかけて育ててきた会社を他人に委ねるのですから、ある種の寂しさがあるのは当然のことです。

しかし、成長手段としてのM&Aに、「買う」「売る」という考え方を当てはめるのはナンセンスだと私は思います。大切なのは「どこと組むか」です。

会社を売る効果は「IPO」と変わらない

自社に足りないところを補ってくれるパートナーと組めるなら、自社が買う側であろうと売る側であろうと、本質的な違いはありません。

そもそも、株式を手放すことはネガティブなことでしょうか。

オーナー経営者が自身の保有する株を売却する行為の一つに、「IPO」(株式上場)があります。企業はIPOによって市場から資金を調達して、成長戦略に投資することが可能になります。また、上場には厳しい基準があるため、その基準をクリアすることで社会的な信用度や評価も高まります。

もちろん、オーナー経営者は保有している株式を売ることによって売却益を手にすることができます。経営者の多くは、IPOに非常にポジティブなイメージを抱いており、いずれは自社をIPOしたいという夢を抱いている経営者も少なくありません。

では、M&Aで株式を手放すという行為と、IPOとは何が違うのでしょうか。

確実に異なるのは株の売り方や売り先がパブリックかプライベートかくらいであるというのが、その答えです。

そのため、私たち日本M&Aセンターでは、「大手企業と組む」ことでIPOと変わらない効果を実現し、自社の成長にドライブをかける戦略を「ミニIPO」と呼んでいます。

この「ミニIPO」については、次回以降、くわしくご紹介したいと思います。

竹内直樹 (たけうち・なおき)
株式会社 日本M&Aセンター 上席執行役員。2007年、日本M&Aセンター入社。2014年執行役員事業法人部長、2017年 ダイレクト事業部事業本部 兼 上席執行役員就任(現任)。入社以来、日本M&Aセンターが10年で売上が5倍となるなか、その成長を牽引し、100社を超えるM&Aを支援。産業構造が激変する現在、中堅・中小企業やベンチャー企業が一段上のステージへ成長するための支援を行う一方で、セミナーや講演を通じての啓発活動でも活躍する。著書に『どこと組むかを考える成長戦略型M&A──「売る・買う」の思考からの脱却と「ミニIPO」の実現』がある。