地方で印刷会社を経営するA社長も、当初は会社を買いたいと当社にアプローチしてきたお一人でした。

A社長が率いる印刷会社A社は、地域で一番の規模と実績を誇る優良企業です。ただ、地域内だけでは成長に限界を感じていました。そこで、他の地域で売却を考えている印刷会社がないかと当社に打診され、実際に数社の買収のお手伝いをさせていただきました。

A社長が方針を転換した理由

ところが、A社長は途中で方針を転換。印刷会社を買うのではなく、大きな企業の傘下に入る道を模索し始めたのです。きっかけは、異業種から印刷業界に参入してきた黒船、ラクスル株式会社の存在を知ったことでした。

ラクスルはコンサルティングファーム出身の松本恭攝(やすかね)氏が2009年に設立したベンチャー企業で、A4フルカラーのチラシを1枚1・1円からという破格の価格で受注しています。これは相場の10分の1以下の価格。日本の企業ですが、印刷業界の外からやってきて業界にショックを与えたという意味で、まさに黒船的です。

ラクスルが驚異の価格を実現できた理由は、印刷会社のネットワーク化にあります。
印刷業は設備産業です。最新の印刷機を導入して、それを最大限に回すことで利益を出し、さらに最新の印刷機に設備投資するというサイクルで事業が成り立っています。

しかし、市場が縮小しているため、せっかく購入した印刷機をフル稼働させられず、遊休や低稼働となっている会社も少なくありません。

ラクスルはそこに着眼して、各地の印刷会社と提携。動いていない印刷機を把握し、ネットを通じて受注した仕事を印刷会社に割り振って、機械の稼働率を上げていったのです。

いわば印刷機のシェアリングです。印刷機を効率よく使うため、従来に比べて価格を極端に安くでき、印刷における価格破壊を実現しました。業界の垣根を飛び越えて、常識を打ち砕くビジネスモデルを構築したのです。