「こんな缶詰、食べたことがない」。宮城県石巻市にそんな評判を集める缶詰がある。知る人ぞ知る商品だったが、昨年、タレントの篠原ともえさんの協力でデザインを一新。すぐに「カワイイ」と評判になり、一時品切れになるほどの人気を呼んだ。異色のコラボが生まれた背景には、あの東日本大震災があった――。

昨年、魚の缶詰らしくない斬新なパッケージが注目を浴び、ヒットにつながった商品がある。木の屋石巻水産(宮城県石巻市)が発売した「カレイのえんがわ」缶だ。

もともと1997年に内閣総理大臣賞を受賞した、味に定評のある商品だが、従来のパッケージの商品コピーは「カレイの縁側・醤油煮込み」。デザインも武骨でシンプルなものだった。それを「カレイのえんがわ」に変えて親しみやすくし、「コリコリッおいしいよ!」と食感もパッケージに表示した。新旧の缶詰パッケージを比較すると、同じ中身とは思えない。

左がリニューアルした「カレイのえんがわ」。右の従来のものに比べて一気にかわいくなっている。(写真提供/木の屋石巻水産)

ラジオが縁で「篠原ともえデザイン」に

新デザインを担当したのは、タレントの篠原ともえさんだ。個性的なファッションと独特の話し方で、90年代に“シノラー”ブームを巻き起こしたことで知られる。現在は当時とはまったく違う、大人びた雰囲気で話題の女性になっている。実は服飾学校で学び、数々のデザインを手がけるデザイナーでもある。キュートなイラストも本人によるものだ。

なぜ、石巻の水産会社が女性タレントとコラボレーションしたのだろうか。持ち株会社・木の屋ホールディングス(HD)の木村長努社長は、舞台裏をこう明かす。

「きっかけは、篠原さんがパーソナリティーを務めるラジオ番組『日本カワイイ計画with みんなの経済新聞』に、当社の担当者が『カレイの縁側・醤油煮込みのパッケージが地味なのでなんとかしたい』と相談したのです。篠原さんが情熱的に取り組んでくださったおかげで、商品は一時品切れとなるほど人気を呼び、番組が主催する『日本カワイイ大賞 カワイイ食と農部門』大賞を受賞することもできました」

相談を持ちかけたのは、同社の社員が番組の関係者と知り合いだった縁だという。ここまでのコラボを実現できるかはともかく、いい商品でも、訴求力が不十分で損をしている場合の刷新事例として参考になりそうだ。