木の屋石巻水産は、石巻港に水揚げされたサバやサンマやイワシなどの魚介類を、その日のうちに缶詰に加工する「フレッシュパック製法」で知られる。魚の特徴に合わせて水煮、醤油煮、味噌煮など味付けも変える。看板商品は「金華さば」や「鯨の大和煮」缶詰だ。同社の冷蔵工場は「石巻市魚町1丁目」。目の前に石巻湾が広がる場所にある。

「手前みそですが、お客さんからは『こんな缶詰、食べたことがない』と言われます。刺し身で食べられる新鮮な魚を水揚げ後すぐに缶詰にするので、社員全員が品質に自信を持って販売しています」と木村氏は淡々と語る。

木村氏は父の實氏が創業した会社の経営を受け継ぎ、弟の隆之氏(同HD副社長)と二人三脚で企業規模を拡大させ、昨年10月においの優哉氏(隆之氏の次男)に事業会社の社長を譲った。同社は東日本大震災で甚大な被害を受けたが、さまざまな仕掛けで事業を立て直している。2016年9月期の売上高は約15億7000万円、経常利益は約1億4300万円で、東日本大震災前の売上高(約15億円)を超えた。今期も順調に推移している。

商品開発力を磨き、新たな顧客も開拓

急回復の原動力は、2つある。ひとつは「モノづくり」で、もともと得意だった商品開発力に磨きをかけたこと。もうひとつは「コトづくり」で、カレイ缶が象徴するように、従来の常識を変えて、斬新な訴求を続けたことだ。「缶詰=保存食」のイメージを変える取り組みも進めた結果、「金華さば」などの主力商品も伸び、新たな顧客獲得にもつながった。

たとえばコトづくりでは、昨年から自社の缶詰を使った料理を「木の屋の缶詰ごはん」として発信している。フードスタイリストとして、テレビ・映画・出版など多方面で活躍する飯島奈美氏が考案したメニューだ。

左から、「まぐろの尾肉のバゲットピザ」「小女子と大根のサラダ」「いわしの醤油缶詰カレー」。いずれも木の屋のウェブサイト内でレシピを見ることができる。(写真提供/木の屋石巻水産)

パーティー用メニューとして、「小女子(こうなご)と大根のサラダ」「まぐろの尾肉のバゲットピザ」「さば水煮のドライカレー」「いわしみそ煮とブロッコリーの巣ごもりエッグ」などを紹介。いつものごはん用として、「鯨の大和煮あんの卵焼き」「いわしの醤油缶詰カレー」「さば缶ごはんの手巻きずし」といった料理も紹介されている。昨年からこのメニュー提案をスタートし、同社の公式サイトでも見ることができる。こうしたコラボができるようになったのは、6年半前の東日本大震災を抜きに語れない。