6月5日、日本テレビ系のドキュメンタリー番組『NNNドキュメント』は、岩手・陸前高田のすし屋を取り上げた。ライターの橋本倫史氏は、この番組を観ているとき、「被災地モノか」と受け止めた自分に愕然としたという。実際に陸前高田のすし屋を訪ね、そこで感じたこととは――。

テレビで観た震災後の風景を、目の当たりにすると……

6月5日の『NNNドキュメント』(日本テレビ)で放送されたのは、「うったづぞ 陸前高田 人情仮設の鮨」と題された回だった。再生ボタンを押して録画したこの番組を観始めるとき、僕は「ああ、被災地モノか」と思った。しばらく経って、そんなことを思ってしまったことに愕然とした。

ドキュメンタリー番組を観ているとき、僕は自分のアパートにいる。四畳ほどのせまい部屋で、テレビの前に座っている。画面を通じて眺めている世界は一体何だろう。

「うったづぞ 陸前高田 人情仮設の鮨」は、仮設店舗で営業を続ける「鶴亀鮨」を追ったドキュメンタリーだ。大将の阿部和明さんは陸前高田の駅前商店街ですし屋を営んでいたけれど、店はすべて津波に流されてしまった。現在では津波が届かなかった場所にある陸前高田未来商店街で、長男の真一郎さんと一緒に店を切り盛りしている。

番組の冒頭、“あの日”の陸前高田の様子が映し出される。2011年の3月、僕はこの部屋で、このテレビで、そうした映像を何度となく目にした。それから数カ月後、僕は取材で東北を訪れた。震災をテーマとした取材ではなかったけれど、津波の被害にあった地域も通りかかった。そこで目にした風景に息を飲んだ。何度となくテレビ越しに目にしてきたはずなのに、まるでそんなことは知らなかったかのように驚いている自分に愕然としたのだ。

番組の映像は、現在の陸前高田に切り替わる。「陸前高田ではかさ上げ工事が続いています。そこに借金をして店を建てるか、それとも当面仮設で営業するか。親子は意見が分かれていました」とナレーションが入る。

陸前高田では、ダンプカー200万台分もの土を盛るかさ上げ工事が進められている。もっとも高いところでは12メートル、4階建てのビルと同じ高さにまで土を盛るのだ。画面の中ではダンプカーが行き交って土を運び、それをショベルカーが盛る様子が映し出される。陸前高田市は、この高台に新しい町を作ろうとしている。中核施設となるショッピングモールの建設が進められており、周辺の区画を出店希望者に格安で貸し出すという話が持ち上がった。そこに「鶴亀鮨」を出店するか否か。変わりゆく町の中で、どういう選択をするのか。それがこのドキュメンタリーの主軸である。

大将は高台から町を見下ろす。そこにはかさ上げ工事が進められる風景が広がっている。かつて「鶴亀鮨」があった場所は、工事で埋まってしまった。その様子を眺めながら、「駅通り自体がもう全部埋まって、変わってしまってっがら」と大将は語る。