7月10日、沖ノ島の世界文化遺産登録が決まった。正確には「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」で、福岡県宗像市の沖ノ島や宗像大社など8つの構成資産から成る遺産群が日本で17番目の世界文化遺産に登録されることになる。
世界文化遺産の登録を目指す場所はいくつか存在する。同じ九州には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がある。今年2月、政府はユネスコ世界遺産センターに推薦書を提出した。今年の夏から秋にかけて、イコモス(国際記念物遺跡会議)による現地調査がおこなわれ、来年には世界遺産委員会で審議が予定されている。
沖ノ島の世界文化遺産登録より遡ること4日。長崎県五島列島を舞台とするドキュメンタリーがオンエアされた。BSプレミアムで放送された『祈りの島を訪ねて〜五島列島〜』だ。
番組は賛美歌とともに始まる。船上から撮影した映像は、湾の上にそびえる教会を捉えている。五島列島は長崎港から西に100キロほど離れた場所にあり、140あまりの島で構成されている。江戸時代に禁教令が出されると、多くのキリシタンは弾圧を逃れて五島列島に移住した。今もこの島々には9000人のカトリック教徒が暮らしており、49の教会が存在する。厳しい弾圧の中でも信仰を捨てなかった信徒と、彼らを受け入れた島の人びと。本作は先祖から受け継がれた信仰が息づく島の生活を追ったドキュメンタリーである。
明治期まで続いていたキリシタン弾圧
冒頭で紹介されるのはキリシタン湾洞。船でしかたどり着くことの出来ない洞窟である。
足場が悪く奥行きもないこの洞窟に、弾圧から逃れようと3家族が身を潜めていた。彼らは岩場で捕まえた魚を食べ、雨水をすすりながら、2カ月間に渡って洞窟で過ごしていた。しかし、焚き火の煙が近くを通る船に見つかり、信者たちは拷問を受け、棄教を迫られたのだという。それは「今から150年前のこと」だとナレーションは語る。
今のは僕の聞き間違いだろうか?
今から150年前となると、まもなく明治時代である。厳しい弾圧があったのはもっと昔の話ではないのか。そう思って調べてみると、明治元年になると五島列島のキリシタン探索はますます厳しいものとなり、「五島崩れ」と呼ばれる最後のキリシタン弾圧の嵐が吹き荒れたのだと記されていた。そんな最近までキリシタンが弾圧を受けていたなんて、知らなかった。知らないことばかりで暗い気持ちになる。
キリシタン湾洞には、今では真っ白な十字架とマリア像が飾られている。年に一度、この湾洞で暮らした先祖を讃えて感謝のミサが行われる。ミサの前日、取材班は湾洞に身を潜めた家族の子孫である女性を取材する。「うれしいって気持ちもあります。自分の先祖のためにみなさんが集まってミサをささげてくれることがありがたくて」。そう語る彼女は、そうめんをラップにくるみ続けている。それはミサに集まってくれた人びとに振る舞うためのものだ。
ミサ当日。五島列島の各地から100人以上の信者がキリシタン湾洞の前に集まった。ミサが終わると炊き出しが始まる。魚入りのそうめん汁だ。かつて身を潜めた先祖たちが魚を獲って命をつなぎとめたことから、このメニューを振舞っているのだという。岩場に佇んでそうめん汁を頬張る人びとの姿が映し出される。この場所では毎年こうした風景が広がっているのだろう。その生活を守り続けている人たちがいる。改めて、何かを受け継ぐということに思いを巡らせる。