改憲へ一点突破の「一石四鳥」

第一の「3分の2の結集」では、民進党、日本維新の会、与党の公明党の取り込みを狙った。民進党は改憲派と護憲派が同居するが、この時期、首相が改憲を強く打ち出すこと自体、民進党分断の効果あり、という計算が働いたのは疑いない。「教育無償化」は日本維新の会が主唱する主張で、「改憲の友党」の抱き込みの意図は明白である。安倍首相にとって一番やっかいなのは、与党なのに「改憲に慎重な公明党」だろう。菅義偉官房長官と一緒に知恵を巡らせた結果、「加憲」を唱える公明党が、自衛隊の憲法明記について、「要・不要の両論併記」としてきた点に目をつけて、「憲法9条への自衛隊明記の第3項追加」を持ち出して、つなぎ留めを図ったと見られる。

第二の「総裁主導」は、発議案を策定する衆参の憲法審査会の尻をたたくのが目的だ。与野党連携を重視する憲法審査会の審議が思いどおりに運ばないという不満があり、安倍首相は「1強」を背景に、「総裁主導」で審議を促進させようと考えたのではないか、

第三の「改憲期限」で明言した「20年施行」について、首相自身は東京オリンピック・パラリンピックとの関係を強調しているが、それだけでなく、首相在任期間を意識しているのは間違いない。総裁任期の「3期9年」への延長を手にしたが、安倍首相が言う「改憲勢力」が衆参で3分の2を確保している現状で発議に挑むのが現実的という判断があるはずだ。3分の2を大きく上回っている衆議院はともかく、参議院は次の19年選挙の後も「改憲勢力」が続けて3分の2を維持できるかどうかはわからない。安倍首相は次期参院選前の発議を想定し、国民投票を経て、20年施行というシナリオを描いているのだろう。

第四の「民意・世論対策」も、首相には気がかりだろう。改憲に対する民意や世論の支持、国民的な関心は今一つだ。5月13~14日実施の朝日新聞の世論調査でも、「改憲の時期にこだわるべきでない」52%、「憲法9条への自衛隊明記」について「必要」41%、「不要」44%という数字だった。首相自身の改憲案を示して国民にアピールしなければ、この壁を乗り越えられないと思うのは当然である。国民的な関心という点で、緊張が続く朝鮮半島情勢も、「改憲の好機」と映ったと思われる。