山奥であっても仕事は必ずある

嶺北地域は、大豊町、土佐町、大川村、本山町の3町1村からなる。地域面積965平方キロメートルの大半が山林だ。そこへの移住者だが、「12年の33件・54人から16年には65件・101人に増え、30代、40代の子育て世代の方が多いですね」と、移住促進を担うNPO法人れいほく田舎暮らしネットワーク事務局長の川村幸司さんはいう。

当然、そんな山深い町に移住して生活の糧を得る仕事があるのか心配だが、イケダさんは「選り好みをせずに探せば、仕事はあります」という。たとえば高知は生姜の生産で有名で、イケダさんの後輩移住者で1年前に本山町に移住してきた25歳の矢野大地さんは「1カ月の収穫のお手伝いで20万円いただきました」と話す。このほか役場の臨時職員の口などもあって、これらをつないでいけば年間に百数十万円を稼ぐことは十分に可能なのだそうだ。

一方、生活面での支出だが、冒頭のイケダさんのコメントにあるように、おすそ分け文化の恩恵を受け、大都市圏では想像もつかないくらいの水準に抑えることができる。同じく後輩移住者で27歳の里本裕規さんは「まず野菜を買うことはありません。水は沢水を引き込んでいるのでタダです。隣近所の方々や自然からのおすそ分けで、十分に生活が成り立ちます」と語る。

本山町に移住してから第2子が生まれ、4人家族になったイケダさんの毎月の支出は、食費2万円、通信費8000円、ガソリン代1万円に、家賃の3万3000円強などを加えて約12万円。それでも、かなり余裕を持って計算した結果で、実際にはそれほどかかっていない月も多いのだという。

もちろん、そこには酒飲み文化を満喫する集落の人や移住仲間たちとの交際費も含まれている。「ただし、お酒1本とつまみを1品ずつ各人が持ち寄る『家飲みバーベキュー』が基本で、1人当たり2000円もあればお釣りがきます。たいがいお昼から始まって、私は夜の8時くらいに帰りますが、時計が一回りした深夜2時、3時に最終的なお開きということも多いようです」とイケダさんは話す。

規定でクラインガルテンもとやまに住めるのは3年間。そこでイケダさんは先ごろ近くに2700坪の土地を購入して、どんな上屋を建てるのかミキさんと話し合っている。「将来は、そこに都会で心身ともに疲れ切った人を受け入れる施設をつくるのが夢です」とイケダさんはいう。

(撮影=石橋素幸)
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