「私は学校で英語を学んだわけではない」

中高で所属していたESS(英語研究会)では、『慕情』という映画を英語劇で上演しました。主演はウィリアム・ホールデンとジェニファー・ジョーンズ。セリフを覚えてしまうまで何度も繰り返し観ましたから、いまでもきちんと説明することができます(笑)。

一本の映画を字幕なしに何度も観ることは、英語学習のレベルをグッと高めます。生きた英語を音で捉えることと、教科書や参考書を通じて英語を目から学ぶことは、全く違うからです。ESSではアポロ11号の月面着陸の様子を再現して文化祭で上演。私はプロデューサーを務めました。舞台設定のために米国の「LIFE」誌を活用したのもいい思い出です。

高校時代までは英語少女でしたが、カイロ大学留学を決意し「必要」に迫られて勉強する環境に身を投じました。いまだに日本語の本格的なアラビア語辞書はありません。アラビア語を習得するためには、英語を使う必要がありました。私の場合、留学によって、アラビア語と英語を同時に学んだわけです。

アリババを率いる世界有数の資産家 ジャック・マー
ジャック・マー(マー・ユン、馬 雲)は、1964年生まれ。中国・アリババ社(阿里巴巴集団)の創業者で現会長。中学・高校での成績は振るわず、大学進学をあきらめて3輪自動車の運転手をしていた時期もある。88年に杭州師範学院(現杭州師範大学)英語科を卒業。95年に渡米。99年にアリババを創設した。(写真=時事通信)

ただ、いまの時代は必ずしも留学をする必要はないでしょう。それを教えてくれたのは、アリババグループ会長のジャック・マー氏です。私はマー氏と親しく、そのためか、「豊洲新市場を中国のアリババグループに売却しようとしている」という根も葉もない無責任な報道もありました。報道には断固抗議していますが、マー氏とは、昨年1月にブラウン英国元首相がロンドンで開催した教育に関する有識者会議でお会いしました。

この会議で私は、トルコに逃れたシリア難民の子供たちのために、クラウドファンディングで資金を集めた「さくら小学校」のことを報告しました。シリア難民はアラビア語のため、トルコの学校には通えません。難民の子供は教育機会を失う恐れがあり、一生難民にならないよう、アラビア語で学べる学校をトルコに建てたのです。

マー氏は学校建築について賛辞を述べつつ、「学ぶのに建物はいらない」というスピーチをしました。彼は元英語教師で、とても流暢な英語を話します。その彼がこう言ったのです。

「私は学校で英語を学んだわけではありません。私の先生はBBCラジオです」「自転車で毎朝40分、西湖近くのホテルに9年間通って、ガイドとして英語を練習しました。いまはインターネットの時代です。教育の問題は物理的な学校の有無ではなく、インターネットをどこまで普及させられるかです。インターネットがあれば、意欲のある子は誰でも学ぶことができます」

これまで日本は日本語という大きな壁に守られていましたが、そうした時代は終わりました。むしろ英語は世界で成功するための「パスポート」です。ぜひ生きた英語を身につけてください。

小池百合子(こいけ・ゆりこ)
1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
(構成=藤井あきら 撮影=原 貴彦 写真=時事通信)
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