「文部省の教育方針は根本的に間違っている」

「なぜ日本人は文部省を訴えないのか?」。私がキャスターを務めていたテレビ番組で、上智大学の教授だったグレゴリー・クラーク氏に問いかけられたことが忘れられません。氏はこう続けました。

「日本人は、義務教育の中学3年間をかけて英語を学んでいる。それなのにほとんどの人が英語を話せない、書けない、聞けない。膨大な時間を浪費していることになる。これは教育行政を担う文部省(現在の文部科学省)の教育方針が根本的に間違っているからだ。集団訴訟の対象だね」と。

日本人は英語の学習に熱心です。書店の「語学」のコーナーには、中高生向けには受験参考書、留学のためにはTOEFLやGMATのテキスト、社会人向けにはTOEICのスコア向上を謳った教材がたくさん並べられています。英会話の学校は数え切れないほどあります。編集者に聞くと、雑誌の「英語特集」もよく売れるとか。これは、英語に対して苦手意識を持っている日本人がいかに多いのか、という証拠です。

実際にTOEFLを実施するETS(Educational Testing Service)が2015年に発表したTOEFLの平均点をみると、日本は120点満点中71点で、アジア30カ国中26位です。Speakingに絞ると30点中17点でアジア最下位。Writingは18点でアフガニスタン、タジキスタン、カンボジア、ラオスと同点の最下位となっています。Speakingは世界172カ国で比較してもコートジボワール、赤道ギニア、トーゴ、マリと同点で最下位という散々な結果です。

先日、テレビで東大を受験する中国人留学生が「日本の英語教育のレベルが低すぎ。やばいね」と語っていました。

日本人の多くは中学・高校で6年間英語の勉強をし、5割を超える大卒者の場合は大学でも4年間勉強しますから、合計10年は英語を勉強しているはずです。それにもかかわらず、なぜ世界で最下位の英語力なのか。

理由のひとつは教育制度です。「英語を話せない英語教師」という構造的な問題です。もうひとつは、生徒たちに英語を学ぶ必要性が伝わっておらず、学ぶことへのモチベーションが低いこと。

私の場合は、まず「好き」から始まって、「必要」に迫られて英語を身につけてきました。

中高生のころは世界のポップスが大好きで、ビートルズや後にモンキーズのメンバーになるデイビッド・ジョーンズをよく聴いていました。日本ではザ・タイガースなどのグループサウンズが流行り始めた時代です。私は海外の最新情報を得るために「16(シックスティーン)」という米国の月刊誌を愛読していました。当時、兵庫・芦屋の書店では1冊700円もしたものです。とても高かったことを覚えています。わからない言葉が出てくるたびに辞書を引き、内容を理解しようと一生懸命読みました。もちろん好きな曲の歌詞は、覚えるまで口ずさみました。