クールビズに加えて夏に「快適通勤」を開始
東京の「通勤ラッシュ」は世界的に有名です。高度経済成長時代と比べると、かなり緩和されたとはいえ、いまだに「痛勤」状態は続いています。外国人観光客はわざわざラッシュ時にその様子を見に来たり、動画を撮影したり……。笑い話のようですが、首都圏の深刻な問題のひとつです。
混雑した電車に長時間乗っていれば、相当に体力を消耗しますから、ビジネスパーソンの生産性を損なうことになります。さらに子供連れや高齢者、体の不自由な人は、ラッシュ時に電車へ乗ることもはばかられます。通勤においても「ダイバーシティ」を実現することが必要です。
そこで今年の夏に「快適通勤ムーブメント」を実施します。私が主唱した「クールビズ」でもそうでしたが、上から「せーの」で変わらなければ、日本の企業や組織は動きません。一度、通勤ラッシュを見直す機会をつくることで、多くの人に快適な通勤とはどのようなものか実感してほしいのです。
具体的には、民間企業に時差出勤やフレックスタイム、テレワークの導入を求めていくとともに、鉄道事業者には継続的な輸送力の強化、時差通勤へのポイント付与、どの時間帯が混んでいるのか「混雑の見える化」をお願いします。ハード(輸送力の強化)とソフト(働き方改革)をセットにして、あらゆる方法を総動員します。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの期間中には、海外から大勢のゲストが来ます。このまま満員電車を放置していると、交通機関は深刻な麻痺に見舞われるでしょう。ほかの開催国も、五輪を機に、対応を進めてきた経緯があります。たとえばリオでは、専用レーンを設けることで、深刻な交通渋滞を回避しました。しかしこれは車線用地に余裕のあるリオだからできる対応です。
一方、ロンドンでは企業による「テレワーク」の推進で、地下鉄における通勤ラッシュの緩和に成功しました。テレワークとは、ITの活用で、都心のオフィスだけでなく、自宅や遠隔地でも働ける仕組みのことです。ロンドン五輪と同じように、東京五輪でもテレワークをレガシー(遺産)のひとつにできればと考えています。
現在、国が進めている「働き方改革」においても、テレワークは重要なコンセプトです。インターネットがあれば、いつでも、どこでも、自由に働くことができる。これは仕事と介護や育児を両立させるうえで、大きな助けになります。またそうした制度が整えば、どんな場所でもビジネスを広げられるようになります。たとえば東京都には約330の島があり、そのうち11は有人島で、産業の中心は観光業や漁業です。こうした島も、テレワークが進めば、自然の豊かなオフィスとしての価値をもつようになります。そのためにはインターネット環境を整備する必要があります。
17年度の予算案では、島嶼(とうしょ)地域の振興策として、海底光ファイバーケーブルの整備や地域資源のブランディング支援などで270億円を計上しています。特に、インターネット環境が整うことで、暮らしの改善だけでなく、できる仕事が増え、島に移住する人が増えることを期待しています。