確信犯の「上場ゴール」暴利を貪る経営陣
「上場ゴール」という言葉をご存じだろうか。株式を取引所に上場(公開)するのは、そこで広く投資家から資金を集めて企業をさらに成長させるためだ。ところが、上場前から株式を保有する経営陣たちが、上場によって保有株の価値を大化けさせ、一攫千金を狙うことだけが最終目的となっているような株式上場を指す。投資家からすれば、高値で株をつかまされるので、まるで詐欺にでもあったような甚大な被害をもたらす。
そうした「上場ゴール」まがいの株式公開は、株式相場に人々の関心が向いている時に現れることが多い。2016年の日本の株式相場は、ドナルド・トランプ氏の米大統領選での勝利をきっかけに大きく買われ、12月には1万9000円台に乗せ、年初来高値を更新した。現在も株式相場への関心は高い。
上場時の売り出しや公募増資など、一般の投資家が上場直前に購入した価格を、上場初値が下回ったり、上場初値では上回っても、その後大きく値下がったりすれば、投資家は損失を被る。とくに、公開前に示していた業績見通しを上場後に下方修正するような例は、意図していたかどうかにかかわらず、投資家を欺く行為だ。実態以上に数字を良く見せるのは明らかな「粉飾」である。
9月2日に東京証券取引所のマザーズに上場したベイカレント・コンサルティングは、12月9日になって17年2月期の業績予想を大幅に修正した。税引き前利益を従来予想の39億1500万円から20億8300万円に下方修正したのだ。前期実績は25億8200万円なので、51%増益から一転して19.4%減益へと方向性が大きく変わったわけだ。上場からわずか3カ月のことである。しかも、業績悪化の責任を取るとして、萩平和巳社長は辞任してしまった(※1)。上場時の情報開示に大きな問題があったのは明らかだが、責任のすべては前社長にあると言うのだろうか。ベイカレントの公開価格は2100円だったが、上場初日の1999円を高値に下げ続けた。下方修正後はストップ安が続き、12月22日には808円の上場来安値を付けている。
企業の株式公開には、当然専門家が関与する。業績見通しなどについてもこうしたプロたちのチェックを通って公開されている。ベイカレントの場合、主幹事証券は野村証券、担当の監査法人はトーマツである。どちらも業界大手だ。証券会社も監査法人も、本来は資本市場と投資家を守るのが一義的な役割のはずだ。公開させる企業は手数料をくれる顧客には違いないが、公開企業は資本市場を使うことで資金調達という大きな利益を得る。証券会社も監査法人も投資家が信用する資本市場を維持してこそ商売が成り立つのだ。それが、どうも目先の利益、つまり手数料を払ってくれる企業を優先しているようにみえる。
「次から次へと問題が起こる。もう少し主幹事証券がしっかりしてくれないと困る」と東京証券取引所の幹部は言う。投資家が損をする公開が増えれば、投資家の文句は東証に殺到する。「このところ、かなり審査を厳しくしているが、なかなかダメとは言えない悩ましいケースが多い」という。
売り上げの多くが業務契約だけで、本当にそれが実現するのか不透明だったり、買収を繰り返して「営業権(のれん代)」が膨大に積み重なっていたりする会社の評価となると、監査法人でも頭を悩ますという。企業価値が本当にあるのか測りきれないというのだ。上場の審査を厳しくすれば、新規上場企業数は増えない。