極限までモノや情報、人付き合いを減らす「ミニマリスト」と呼ばれる人たちが増えているという。「捨てる」ことでどんな効果があるのか。達人に聞く。
ChatWorkのオフィスにはモノがない。仕切りのない空間に、大きなテーブルと椅子があるだけだ。座席は固定されておらず、40人前後の社員はてんでんばらばらに好きな場所に腰掛けている。個室の会議室は設けず、ある一画では7~8人が固まってミーティングを行い、隅のほうには1人で黙々と作業する人。オフィス内の柱に埋め込まれたホワイトボードを使い、相談しあう者もいる。
仕事に使うのは、社員が持参したノートパソコンのみ。一般的な企業にあるようなプリンターや複合機、メモをとる紙やペン、書籍やファイルに綴じられた資料の類いは一切ない。机には棚や引き出しはおろか、電話もない。まるでレンタルオフィスか、引っ越ししてきたばかりのオフィスのようにも見えてしまう。
1年前に転職してきた河野智英子さんは、初めてオフィスを訪れたときにキョトンとした。
「何もなさすぎて、打ち合わせスペースなのかと思いました。前職では、分厚い紙の資料を持ち歩くのが当たり前。オフィスには備品や資料が溢れて、雑然としていました。どうすればパソコンだけで仕事ができるのかな、って不思議でした」
しかし、戸惑うのは最初だけだったという。新入社員は一様に、何もないオフィスに馴染んでいく。半年前に入社したチーフラーニングオフィサーの田口光さんは、忘れ物の心配から解放された喜びを語る。
「指紋認証システムで入室するので、社員証や鍵はつくっていません。忘れたから入れないとか、なくして始末書を書くなんていう面倒がないんです」
そのうえ、集中力も高まってきた。
「視界に入るものが多いと、注意力が散漫になってしまいますよね。何かが動くと気が散るし、揃え直したくなる。モノがないおかげで、仕事に専念できるようになりました」(田口さん)
ChatWorkは、メール、電話、会議に代わるコミュニケーションツール「チャットワーク」の運営企業だ。グループ登録をすれば社内全体で情報の共有が可能になり、必要な資料、連絡はすべてクラウド上のやり取りで済んでしまう。個人のメールやスケジュールの管理機能もついている。2016年3月でサービス提供開始から5周年を迎え、世界205カ国、9万社以上への導入をしている。拠点を大阪と東京に構えているほか、最近ではアメリカ、シリコンバレーにもオフィスを構える。
「社長の山本敏行が調べたところ、ビジネスマンは年間で150時間もモノを探しているそうです。どこに何を置くか、意思決定にも時間を費やしている。モノをなくして、作業効率の高い快適な職場環境を実現することが、創業当初からの理念です」(田口さん)