私は、ファッションには疎い人間で、とにかく、1年中、同じ服を着ている。
しかも困ったことがある。学者さんの中には、時折、同じ服を何着も持っている、という方がいらっしゃるけれども、私の場合、本当に1着しか持っていないのである。
ズボンも、ジャケットも、ドラム式洗濯乾燥機で洗ってしまう。完全に乾かないままに取り出して、そのまま着て出ていってしまう。こんな話を聞くと、それはひどい、という方が多いのだが。
そんな私でも、ごく稀に、ファッションショーに行くことがある。率直に、凄いと思う。デザイナーが、トレンドの最先端を読んで、エレガントで独創的な服をつくり、それを、この惑星の生きものとは思えないほどのスタイルのモデルさんが着て歩く。
ファッションに縁遠い私でも、へえ、と感心し、見入ってしまう。もっとも、モデルさんが着ている服を実際にまとってみようとはなかなか思わないし、そもそも、サイズ的に入らないと思うのだが。
さて、流行の動きとして、デザイナーのつくった服がファッションショーで披露され、それが世の中に広がっていく、という方向性がある。それは大切だが、全く別の流れもあるのだと、ある人物のドキュメンタリー映画を見ていて気づかされた。
先日、87歳で亡くなったビル・カニンガムさん。ニューヨークのストリートで、街行く人たちのファッションを長年撮影し続けた、伝説の写真家である。
ニューヨークといえば、世界的なモードの中心地。この街のファッション・リーダーの多くが、「ビルに撮ってもらうために、服を着ている」「ビルに撮ってもらうのが、いちばんうれしい」と証言する、カリスマ写真家だった。