「島」という地理が団結力を育んだ

いま、世界は混迷を極めており、20世紀的なものが行き詰まっています。21世紀の世界がどのような仕組みになるのか、まだ誰もはっきりとしたイメージができていませんが、未来を展望するには、歴史を学ぶことが重要です。

葛西敬之●1940年生まれ。63年東京大学法学部卒業、日本国有鉄道入社。69年米ウィスコンシン大学大学院経済学修士号取得。87年東海旅客鉄道(JR東海)発足に伴い、取締役・総合企画本部長。90年副社長、95年社長、2004年会長。14年より代表取締役名誉会長。

歴史を学ぶということは人間を学ぶことでもあります。人間が様々な仕事をしていくうえで必要なことは、「人間学」であり、それには、歴史上の人物、特に国の興亡を担ってきた人々の決断や行動などを学ぶことが大切です。

これからの日本が進むべき方向を考えるには、日本の文明や文化、日本人の性格を形成している根源が何かを知る必要があります。世界の国々を、大陸、半島、島という3つに分けると、それぞれの持つ文明が地理的な特性に大きく影響されていることがわかります。日本の文明・文化・歴史や日本人の性格を形成しているのも、日本の地理的特性であると思います。

四面を海に囲まれた日本には2つの特徴があります。1つは、大陸から流入してきたあらゆるものを許容し、「日本化」して残すことです。

中国の「黄河文明」などが象徴するように、大陸では様々な文明が生まれました。日本に入ってきた文明の多くは大陸で生まれたものです。ところが、大陸は「文明をつくるが興亡を繰り返す」という性格があります。陸続きで隣接する文明が存在するため、1つの文明が長続きしません。

一方、日本は、朝鮮半島という回廊(コリドー)を経由して流入してきた文物が、並行的に重なり合って残っています。たとえば日本の「雅楽」の一部は唐の時代の宮廷音楽だと言われていますが、発祥の地である中国では、もうどこにも見当たりません。

もう1つの特徴として、外からの脅威を受けたとき、国内が団結して対処することが挙げられます。

日本の平和や安全は海が守ってくれます。そのため、平時は、国内を治めることが最大の関心事となり、内向き志向になりがちです。その日本人の姿を如実に示しているのが、聖徳太子が制定した「17条憲法」だと思います。

第1条は「和(わ)を以て貴(とうと)しと為し、忤(さか)うることなきを宗(むね)とせよ」から始まりますが、17条憲法には「外敵に備えよ」といった内容はありません。

大陸は強い国がライバル国を制圧するという歴史を繰り返してきました。また、半島は大陸から圧力が加わると、「誰と同盟を結べば国を守れるのか」と考え、結果的に内部分裂します。ところが、平時には内向きで平和ボケに見える日本が、外からの脅威を受けたときには内部分裂せず、見事に団結して対処するのです。大化の改新や明治維新がその最たる例でしょう。