革命は3つの段階で成就すると説く「司馬史観」
「この国のかたち」――、この言葉から、司馬遼太郎を連想する人も多いに違いない。数多くの歴史小説や随筆を書いたが、その根底にはいつも日本人を見つめる視線があった。では読者は、そんな司馬作品とどう向かい合えばいいのか。本書は、司馬遼太郎の元編集担当者で戦史研究家でもある森史朗氏が、代表作といわれる小説をどの順番で読んでいけば理解が深まるかを指南している。
まず1冊目は、新選組の土方歳三を描いた『燃えよ剣』である。意外に感じる人もいるだろうが、実は、司馬本人がベストワンとして「『燃えよ剣』だと思います」と語っているのだ。それまで、土方といえば、映画などでも冷酷な悪役として扱われていた。しかし、司馬の筆は颯爽とし、人情味もある土方を生み出した。森氏は「この点にこそ、作家司馬遼太郎らしさがある」という。いってみれば、まったく新しい解釈で司馬ならではの人物像を創り上げるのだ。
そのことは、2冊目の『竜馬がゆく』、4冊目の『世に棲む日日』にも当てはまる。坂本竜馬にしても、吉田松陰にしても、司馬は彼らに重要な使命を与えている。ここに、彼が維新や革命は3つの段階を経て成就すると説く“司馬史観”がある。まず、思想家が警鐘を鳴らし、次いで革命家が奔走する。彼らの大半は早逝するが、生き残った実務家が新体制を仕上げるというのだ。いうまでもなく、思想家は松陰であり、革命家は竜馬だ。そして5冊目の『翔ぶが如く』に登場する大久保利通が実務家といっていい。土方も、ある種の革命児かもしれない。