なぜイギリスはユーロを導入しない?

EUでは、99年にユーロが導入され、2002年から通貨が流通しています。EU加盟国でもユーロを導入していない国はいくつかありますが、なぜ、イギリスはユーロを導入しないのでしょうか。

イギリスは金融立国です。ロンドンの金融市場では多通貨であるほうが、取引量が増えて金融ビジネス上、有利です。ポンド-ユーロ、ポンド-ドル等の取引ビジネスです。ポンドへの愛着もあるでしょうが、もっぱらビジネス優先です。ユーロ以外でも、もし、中国の人民元が自由化されたら、ロンドンを人民元取引の中心市場にしようと考えているほどです。経済・金融的メリットを常に優先するのです。

一方、ドイツは、政治的にはあまり出しゃばりたくないけれども、ヨーロッパ全体の物価は安定させたい。その軸は我々だというプライドを持っています。なので、金融より財政規律を重視するというスタンスなのです。

少しうがった見方をする人の中には、「統一通貨にして為替変動がなくなれば、独通貨高が解消されるので、輸出大国のドイツがぼろ儲けするだけじゃないか」と指摘する声もあります。たしかに、そうした側面はあるかもしれません。しかし、一義的にはヨーロッパ経済の安定を考えていることは間違いないでしょう。ドイツの人は、「『ドイツのための欧州』ではなく、『欧州のためのドイツ』」とよく口にします。EUはドイツにとって、目立ちすぎない形で生き延びながら、権益にもつながる大きな手段です。欧州が安定成長を続ければ、自然にドイツにもメリットが広がる、というスタンスです。だから欧州統合に積極的にかかわってきたわけです。

イギリスは自分たちがドイツに敵わないことを知っています。だから歴史的につながりの深いアメリカとの政治・経済のパイプの太さを強調する「大西洋カード」を時折チラつかせます。EUの一員だが「欧州合衆国」のような形でまとまることには反対。各国の主権を維持した国家連合なら、統合市場のメリットを享受しながら財政主権を維持できる。そうした考え方が、EUの中でイギリスが常に「ちょっと違う」ように見える理由です。

上智大学客員教授 藤井良広
日本経済新聞社ではロンドン駐在記者としても活躍。その後、英オックスフォード大学客員研究員、英UCL客員研究員、米コロンビア大学客員研究員、上智大学教授などを歴任。『EUの知識』など著書多数。
 
(小澤啓司=構成)
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