産業革命は奴隷貿易の産物だった

先進国がそれ以外の国々よりも経済的に豊かなのは、国民が優秀で、かつマジメに働いてきたからだ――。「先進7カ国」の一角を占めるわが国の国民としては、ついそんな意見に同調したくなる。しかし、それはやっぱり少しばかり脳天気で、自己中心的な料簡なのだ。この本はそういう現代世界の常識を、これでもかとわからせてくれる。

アメリカの社会学者、イマニュエル・ウォーラーステイン(85歳でなお活躍中)の「世界システム論」をご存じだろうか。世界を一国単位で見るのではなく、単一のシステムとして巨視的に捉えるこの理論は、70年代以降の世界思潮に大きなインパクトをもたらした。著者はそのウォーラーステインの代表作『近代世界システム』を翻訳、紹介した歴史学者だ。タイトルからもわかる通り、本書はウォーラーステイン式に近代史を概観することで、世界システム論のエッセンスを説き起こす。

『世界システム論講義』川北稔(著) ちくま学芸文庫

などと言うといかにもとっつきにくそうだが、これが案外スラスラ読める。歴史好きはもちろん、その昔「一問一答式」でイヤイヤ暗記しただけの人でもついていけるくらい、書きぶりがやさしい。

歴史を広角的に見る世界システム論のアプローチは、世界史上の出来事がはらむ意味をいわば立体的に明らかにする。たとえば産業革命の成功要因。真っ先に頭に浮かぶのはワットによる改良蒸気機関、石炭の活用といったところだが、さらに重要な根本要因はイギリスの外にあった。

トリニダード・トバゴの独立運動をけん引したエリック・ウィリアムズの主張を引いて、著者は言う。

<イギリス産業革命は、ひとことでいえば、黒人奴隷貿易と黒人奴隷制度の産物であった。黒人奴隷の血と汗をもって、この工業化は達成された>