安売り攻勢にはカウンターパンチを

1つ1つの決断に時間をかけてはならない。直面する課題の7~8割はその場で決める。これが第三の基本だ。2、3日検討するくらいなら、すぐ決断し、必要に応じて修正していくほうがはるかに好ましい結果が得られると考えるべきだ。

もちろん、投資計画などの複雑な課題は私でもすぐには決められない。時間をかけて考える。ただ、ややこしい課題はせいぜい2~3割程度だ。課題の7~8割は即決即断を基本原則にすれば、日々の問題のほとんどは速やかに決断できるだろう。

不況期の場合、決断の中には同業他社との徹底した戦いも含まれる。景気の悪化とともに商品の相場が下がるのは供給が需要を上回るからで、同業他社の中にはなりふりかまわず、安売りを仕かけてくるところがある。

例えば、相場が100円の商品を80円でわが社の顧客に売ろうとする。アタックを仕かけられた以上は受けて立ち、相手の顧客に対してより安い70円で売り、カウンターパンチを返す。体力勝負となり、経営力の弱い企業は市場から去ることになる。その後、市場は適正価格での取引に戻る。そこまで戦い抜かなければ不況期には生き残れない。

その間、こちらも傷を負う。持ちこたえる体力を一番に支えるのは、需要家との強い関係だ。これは一朝一夕にはつくれない。例えば、この不況下でもシンテック社は同業他社が軒並み赤字や大幅減益に陥った中で増収増益を達成した。それが可能だったのは、操業開始以来35年間、需要家との強い関係を全世界規模で積み重ねてきたからだ。

好況のときに需給が逼迫しても、顧客に商品が提供できずに迷惑をかけるようなことが絶対ないよう努める。その結果、ロイヤルティ(継続して取引しようとする度合い)の高い需要家を多く確保することができた。好況期に積み上げた努力が不況期に生きるのだ。

そのため、不況のまっただ中にある今も景気回復後を想定した努力を怠ってはならない。シンテック社は2008年秋、米ルイジアナ州に新工場を稼働させると同時に第二期工事にも着手した。タイミング的には決してよくはなかったが、体力の弱い企業が市場から去ったあと、需要家に商品を安定的に供給し、勝ち続けるための投資として決断した。むろん、今は残業をしてまでも建設工事を急ぐ状況ではないので、最低のコストで完成させるつもりだ。

日々の課題については真の情報をもとにその都度、最善の判断を一つ一つ積み上げていく。同時に中長期的課題については、不況を突き抜けたときの出口に向けて準備を整える。それが100年に一度の不況を克服し、最後まで勝ち抜くための私流の戦い方だ。

※すべて雑誌掲載当時

(勝見 明=構成 坂本政十賜=撮影)