安いからといって、2個も3個も商品を買ってもらえる時代は過ぎ去りました。今、必要とされているのは、高い付加価値がついた商品だけなのです。

<strong>花王社長 尾崎元規</strong>●1949年生まれ。72年慶應義塾大学工学部卒業後、花王石鹸(現花王)入社。化粧品事業本部長、ハウスホールド事業本部長などを経て、2004年より現職。就任時は8人抜きの抜擢が話題になった。
花王社長 尾崎元規
1949年生まれ。72年慶應義塾大学工学部卒業後、花王石鹸(現花王)入社。化粧品事業本部長、ハウスホールド事業本部長などを経て、2004年より現職。就任時は8人抜きの抜擢が話題になった。

そんな商品を開発するために、当社では現場主義を徹底しています。私自身、週末のうち1日は自宅の近所にある、総合スーパー、ドラッグストア、雑貨やトイレタリーを置く食品スーパーの3軒を観測しています。合計で2~3時間程度の観察を10年近く続けているのです。定期的に店舗に足を運ばないと、店頭の変化を肌で感じることができません。

スーツでなく、カジュアルな服装で店に行き、店の定番商品を見て、新製品を手に取る。当社の子会社が派遣した販売員をつかまえて話を聞くこともあります。

最近投入した商品に、柔軟剤のハミングフレアのフレグランスコレクションがあります。定番商品のハミングに香水のように強い香りをつけ、花柄のお洒落なボトルに入れた商品です。当社の調査によると、ここ数年、日本人の香りに関する嗜好が変わり、柔軟剤も欧米並みに香りの強いものが好まれるようになっている。そんな仮説から生まれた商品ですが、それらの情報を一通り頭に入れてから、今日はこの商品を重点的に見よう、売れ行きはどうだろうなどと考えをめぐらせて、現場に赴くのです。

すると、販売員からこんな報告がありました。お客さまが、「柔軟剤なのにシャンプーだと勘違いしてしまう」とおっしゃったというのです。すぐ売り場に行ってみました。柔軟剤の棚に並べてあるから勘違いすることはないはずと思いながらも、消費者の目でじっと商品を眺めてみました。すると、「なるほど」と思い当たりました。

開発者は「柔軟剤をつくる」と頭から思っていますから、シャンプーと混同するなんて考えもしません。しかし、デザインは従来の柔軟剤とは違いますし、香りのよさを前面に出した商品です。間違う方もいるかもしれない。早速、弊社の相談センターに「間違えて買ってしまった」というクレームが来ていないかどうか確認しました。幸いそういったことはなかったのですが、苦情が来ていたとしたら、パッケージ変更を検討するなど、何らかの対処をしたはずです。