お金で本当の安心は買えないという理由

著者がよりあいと出会ったのはこの頃。ロック雑誌『オンステージ』や『宝島』の編集者を経て独立、フリー編集者として活動していた。介護の世界に興味などなかったが、成りゆきでつき合いが始まり、魅力にどんどんはまっていく。よりあいには「世話人」と呼ばれる支援者たちがいて、著者もメンバーに加わる。雑誌「ヨレヨレ」も資金集めの一環である。著者が施設代表者から示された条件は1つ。内容は自由だが、黒字にすること。著者が目指したのは、内輪ウケのなあなあではない、誰が読んでもおもしろい雑誌だ。

潤沢な制作費があるわけではないから、取材・執筆・撮影・レイアウトまですべてひとりでこなす。試行錯誤を繰り返し、創刊号の完成まで3カ月かかった。心身ともにボロボロになったが、斬新な企画と誌面が話題を呼び、地元書店でベストセラー記録を打ち立てた。

こうした取り組みを地道に続け、約4年かけて資金を集め(市の補助金も含む)、15年4月に特養はオープンした。

よりあいには多くの支援者がいる。著者はその理由として、「『宅老所よりあい』のような施設が、この世からなくなってほしくないという、人々の思いのようなものもあったのだろう」と述懐する。その上で、「お金で本当の安心は買えない。お金で買えると思っている安心は、結局のところ、出した金額分しか戻ってこない等価交換の商品券なのだ」「困った時はお互い様という、そのささやかさの中に、お金とは交換できない大切なものがひそんでいる――そのことを知っている人たちがいる」と書く。

いまや多くの中高年世代にとって、親の介護は切実な問題だ。本書は高齢者介護を考える上ではもちろんだが、金がなければ知恵を絞り、行動すればなんとか道は開けるというビジネス的観点からも多くの示唆に富む。そして勇気が湧いてくる。

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