日銀の国債買い入れの副作用
日本銀行の金融政策のスタンスをどう捉えるか。かつて、金融担当記者にとって日銀の動向を常時ウォッチすることは必須の課題だった。私自身、週に数回日銀に訪れていたものだが、いまはなぜか取材対象としてまったく興味が湧かない。
2013年1月にアベノミクスなる経済政策が打ち出され、はや3年が経過した。その間、確かに国内企業の儲けである内部留保、すなわち利益剰余金は340兆円強という史上最高の水準まで積み上がっている。外為相場も円安に向かい、株価も一時的に上昇した。しかし、こうした動きがあった中で、市井の人々の景況感は改善しているだろうか。
安倍首相はアベノミクスの成果を強調するが、本当に評価に値するものなのか。量的緩和の掛け声の下、日本銀行がひたすら国債を買い続けてきた裏側で、その副作用は危機的レベルに達している。
戦後日本は、米国の庇護の下、目覚ましい経済成長を遂げることができた。ところが、1989年のベルリンの壁崩壊を機に東西冷戦が終焉を迎えたことで、国際社会における日本の位置づけは明らかに変わった。
日米欧10億人の自由経済体制に旧東側諸国・新興国のプレイヤー30億人が加わったことで、日本の労働者の賃金の下方圧力が強まった。少子高齢化という日本特有の事情も加わって、潜在成長力が低下した経済(低圧経済)となり、これに合わせて経済政策も修正を施される必要性があった。
病状を正確に把握せずに正しい処方箋を書くことはできない。誤った治療を施し続ける限り、根本的な体質改善を図ることはできず、むしろ病状を悪化させるリスクを伴う。本書は、アベノミクスの「3本の矢」の1本目とされる「大胆な金融政策」に焦点を当てるが、この政策の下で為政者が大いなる錯覚に陥っている感が否めないのである。