人生に迷ったときには、どうすればいいのか。脳科学者の井ノ口馨さんは「直観を信じてみてはどうだろう。あなたが生まれてから今日まで培ってきた、“脳”というスーパーコンピューターがはじきだした最適解なのだから」という――。

※本稿は、井ノ口馨『アイドリング脳 ひらめきの謎を解き明かす』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。

脳のイラスト
写真=iStock.com/CoreDesignKEY
※写真はイメージです

40億年の進化のたまもの

2023年は「生成AI元年」とよばれるほど、ChatGPTをはじめとした生成AI(GenerativeAI)が世間をにぎわせました。

AI(ArtificialIntelligence人工知能)とは、人間の脳が行う思考や学習を再現するコンピュータープログラムやシステムです。人工知能が飛躍的に進歩し、画像診断や音声アシスタントなど、人々の仕事や生活に影響を及ぼすようになってきています。学生や若い人がこれからの時代を生きていく上で、AIと共に生きる、もしくはAIを使いこなすことは必須でしょう。

AIは確かにすごい。実は僕も、AIを活用したアイドリング脳研究を始めたところです。日々の実験において、マウスの脳を観察して得られるデータは、非常に膨大で複雑で、とても人間には解析しきれません。人間には認知できなくても、AIなら何かを見つけられる可能性があると考え、大型の研究プロジェクトを動かしているのです(注1)

ただし、あえて言いますが、脳のほうがもっとすごい!

僕の研究分野で言えば、脳は、数少ないデータ(経験)を基に、正解らしい答えを一瞬で導き出す能力があります。それは直観、といわれるものです。

脳は、意思を持って自ら考え、何かを新しく創造することもできます。おそらくAIにはできないことです。

能力のわりに、超省エネ

さらに脳は、とんでもなく省エネです。人間の脳と同じ機能を持つAIを動かそうと思ったら、人口50万人くらいの都市の総電力くらいのエネルギーが必要になるのではないでしょうか。それが僕たちのこの頭の中に収まっているのです。

このように、直観・創造性があり、少量のデータとエネルギーで駆動できる脳は、やはりすごい。

どうしてそんなことが可能なのか? 簡単に言い表すことはできませんが、1つ確実に言えるのは、脳は、いえ脳に限らず今ある生命体は、40億年かけて開発されてきた進化のたまものだということです。

人間が科学をはじめたのはたった数百年前です。それにひきかえ、生命は、40億年かけてこつこつと部品である分子の一つ一つを選抜し、細胞を、生命を、つくりあげてきました。まだまだ分からないことだらけ、謎も可能性もいっぱい。それを究明しようとしているのが生命科学です。そして、その生命科学の最後の大きなフロンティアといわれているのが脳科学、もう少し広範な言葉にするなら神経科学(英語で言うと、ニューロサイエンス)なのです。