「あんぱん」の優しい伯父が急死、主人公の嵩は泣き崩れる
「伯父さん、ごめんなさい。怒ってるだろうな……」
「これまで育ててもらったお礼も、何も伝えられなかった。伯父さんのこと、一度もお父さんと呼べなかった。もう会えないんだよな」
朝ドラこと連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)の第9週1話(通算49話)で、主人公・柳井嵩(北村匠海)の伯父であり“育ての父”である寛(竹野内豊)が、亡くなった。54歳の竹野内豊が演じる寛はダンディでかっこよく、優しく子どもたちを励ます理想的な父親だと、ドラマファンにも親しまれていたが、突然の悲しい別れとなってしまった。
嵩は実の父・清(二宮和也)に早く死なれ、美しい母・登美子(松嶋菜々子)には去られ、父の兄である寛の家に預けられて成長した。そこには先に寛の養子になっていた実弟の千尋(中沢元紀)もいた。高知の町医者である寛は、医院を継がせるために2人の甥っ子を引き取ったのかとも思われていたが、絵は得意だが勉強は苦手な嵩は東京芸術高等学校へ。千尋は成績優秀だったが帝国大学の医学部ではなく法学部へ。跡継ぎにはならなくても、寛は、兄弟の決めた進路を否定せず学費を出し、精神的にも金銭的にも援助してくれた。
東京でデザインの学校に通う嵩の元に届いた「チチキトク、スグカヘレ」という電報。しかし、卒業制作の最中だった嵩は、この学校に進ませてくれた寛のためにも、と卒業制作の絵を完成させてから、故郷の高知県へと急ぐ。しかし、伯父の家にたどり着いた嵩が見たのは、既に息を引き取った寛の姿だった。
「棺にすがって十年分の涙が出てしまったというぐらい泣いた」
「あんぱん」は、嵩のモデルである『アンパンマン』の作者・やなせたかし(1919~2013年)の生涯と中園ミホによる脚色(フィクション)が入り交じる構成になっているが、1939年、やなせが官立旧制東京高等工芸学校図案科(現・千葉大学工学部総合工学科デザインコース)に在籍していたときに、伯父の柳瀬寛が急死したのは事実だ。
卒業制作のポスターを徹夜で仕上げてから、やなせは汽車に飛び乗って故郷の高知県に帰った。しかし、伯父は既に死んでいたという。自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)によると、ドラマとは違って、伯父は布団の上に寝ていたのではなく、既に棺の中に横たわっていたそうだ。
そして、育ての父の死に目に会えず、弟の千尋から「兄貴、遅いよ」となじられたやなせは、「『お父さんごめんなさい!』ぼくは棺にすがって泣きました。十年分の涙がいっぺんに出てしまったというぐらい泣きました」と書いている(『人生なんて夢だけど』)。