運動で人工透析を回避できた人も
薬は一つの症状に一種類ですが、運動は万能薬です。たとえばウオーキングを習慣にすれば、血圧、コレステロール値、血糖値のすべてを下げることができます。薬のようにお金もかかりません。
昔の常識では、病気を患った場合「安静第一、運動厳禁」でした。たとえば腎臓病の場合、運動をすると腎機能が悪くなり尿たんぱく値が増えるので、安静にしたほうがよいと考えられていたのです。ところが現代の医学では、重篤な状態でない限りは、適度な運動をしたほうが機能回復につながるという考え方に変わっています。安静にしていても日常生活をすれば尿に少量のたんぱくは出てしまうので、出さないことに注力するよりも、適度な運動で腎機能を回復させるほうが有効だというわけです。運動をせずに安静にしていれば、筋肉量や心肺機能が低下し、高血圧や糖尿病などの持病も悪化してしまいます。運動をすれば体の機能が回復し、元気になるのです。
なぜ運動が体によいのか。運動をすることで血管が広がり、血流がよくなります。酸素や栄養素を全身に運ぶことで、細胞を活性化させ、代謝がよくなります。良質な酸素を運ぶために、有酸素運動をするのが大切です。運動によって筋力をアップすれば、体内の機能を調節する物質・マイオカインの分泌量が増加し、脂肪の燃焼へとつながります。丸一日絶対安静にしていると、実に2%もの筋肉が減ってしまいます。通常ですと、2歳年を取ると筋肉量が2%減ります。つまり、一日中寝ているだけで2歳、年を取ってしまうことになります。
運動は、慢性腎臓病の治療に役立つことがわかっています。運動をともなうリハビリによって人工透析を回避できた患者さんもいます。有酸素運動をすると、血行がよくなり、血管を広げるNO(一酸化窒素)が放出され、腎臓のろ過フィルターの役割をする毛細血管「糸球体」の入り口の血管が広がって糸球体にかかる血圧が下がります。血圧が下がることで、糸球体が守られるとともに糸球体に張り付いている「タコ足細胞」も守られ剝れ落ちなくなるために、たんぱく尿の出現も抑えられます。
また、腎臓病を悪化させる3大要因「高血圧」「糖尿病」「リンの過剰摂取」も、運動により改善できます。筋肉の血流量を増やせば、血中のブドウ糖が筋肉に取り込まれて消費され、血糖値が下がります。リンは体に必要な成分ですが、摂りすぎると体に毒です。血中の余分なリンを尿として排出していますが、原尿中のリンの濃度が高くなると、尿細管の負担となります。また血中にリンの濃度が高い状態が続くと、血管の壁の石灰化が起こり、心血管疾患や脳血管疾患のリスクが高まります。体内のリンの多くは骨にストックされますが、運動不足が続くと、骨から血中にリンが流れ出して、尿のリン濃度も高くなります。運動で骨に刺激を与えることで、リンの流出を防ぐことができます。
一方、現代の肝臓病の主な原因は、食べすぎや飲みすぎで肝臓に脂肪が溜まる「脂肪肝」です。脂肪肝は、放っておくと肝硬変や肝がんの原因になるため、脂肪を減らすことが必要です。有酸素運動により血流をよくすることを意識しましょう。またトレーニングで筋肉が増えれば脂肪が溜まりにくくなり、脂肪肝も改善していきます。腎臓、そして肝臓の二つが正常に機能していれば、体内の毒のほとんどは解毒できます。
運動はほかにも心肺機能の向上や、心筋梗塞や脳卒中などの合併症予防にも役立ちます。事実、狭心症や心筋梗塞の患者が運動療法を実施することで、心臓病が原因で死亡する割合が約30%減少したという報告もあります。腎臓が悪い人の多くは、透析に入る前段階で脳卒中や心臓病で亡くなっています。それを防ぐためにも、運動を習慣づけましょう。
透析を始めると、徐々に体力が落ちていきます。透析1回につき4時間は寝た状態になりますので、透析を週3回、1年52週間を掛け算すると、一般の人より26日(すなわち26年分)の筋肉が落ちる計算になります。したがって、透析に入る前は元気だった人も、透析を始めて1年もすると歩けなくなる人がたくさんいます。そこで、透析を始めた人も、運動の習慣をつけましょう。透析のない日に山登りや社交ダンスなどの趣味ができる可能性が高まります。
早歩きとお手軽筋トレがあなたを救う
では、どんな運動がよいのか。最も効果的なのは「ウオーキング」です。それも散歩感覚のゆったりしたペースでなく、背筋を伸ばし、大股で、息がきれるかきれないかの強度で汗をかく程度の早歩きがベストです。たくさん歩けば歩くほどよい、というわけでもありません。よく「1日1万歩がよい」と言いますが、そこまで増やさなくても、1日4000歩以上であれば、歩数が多いほど効果があります。
ただ、あまり頑張ると関節痛などが出てくる場合もあります。目安として、1分間の心拍数が安静時より20~30回増える程度の負荷をかけ、1回20~60分、週に3~5回を目標に歩きましょう。一度に長く歩けない場合は、1回5~10分のウオーキングを数回行い、1日の合計を20~60分にする方法でもかまいません。適度なペースは個人によって違います。誰かと一緒にやるのではなく、1人で歩いたほうがペースを乱されることなく、より効果的なウオーキングになるでしょう。
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