まじめだが大らか、一生懸命だが楽観的

手元にいま、風変わりな雑誌がある。名前は「ヨレヨレ」。なんだか気のぬけた感じだ。サブタイトルには「ぼける前に読んでおきたい『宅老所よりあい』のおもしろい雑誌」とある。福岡市にある介護老人施設「宅老所よりあい」を全面的に扱うが、広報誌ではなく、介護専門誌でもない。施設で日々繰り広げられる老人たちのドタバタ劇を、まさにおもしろおかしく取り上げるユニークな雑誌だ。

同誌の編集・発行人が、よりあいの歩みと、昨春オープンした地域密着型特別養護老人ホーム「よりあいの森」ができるまでの職員らの奮闘を描いたのが本書。

『へろへろ』鹿子裕文著 ナナロク社

よりあいは、全国の宅老所の先駆け的存在だ。1991年、福岡市内のお寺の一室でスタートしたデイサービスがはじまり。ひとり暮らしのぼけた高齢女性を受け入れてくれる施設が見つからなかったため、介護職の女性3人がやむにやまれず始めた。

とにかく型破りだ。採算度外視。高齢者が住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられるよう、国の介護保険制度の枠にとらわれない独自のサービスを提供する。決まったプログラムはなく、利用者は好き勝手に過ごす。職員も利用者の希望や思いをくみ取り対応する。だから施設は常にお金に窮している。職員もたいへんな労力だ。

しかし、それは崇高な理念や理想に基づいたものではない。そこがいい。代表者を筆頭に、まじめだが大らか、一生懸命だが楽観的。著者は「目の前になんとかしないとどうにもならない人がいるからやるのだ。それは理念ではない。行動のあり方だ」と書く。

そうした取り組みが知られるにつれ利用者が増加、施設を拡充してきた。すごいのは、その資金づくりだ。貧乏所帯だからお金はない。ならば集めるまで。募金活動やバザーなど、あの手この手を使って数百万規模の資金を用意するのだから恐れ入る。

圧巻は、本書の中心テーマである特養の建設だ。土地・建物で総額3億円超。なんとここでも同様の手法を取る。寄付金のほか、職員らがカフェを営業したり、手づくりジャムを売ったり、チャリティイベントを開いて100円、200円という小銭を積み上げていく。