しょぼくれた爺さんになりたくはない、と誰もが思う。やはり夢中になれることを見つけた人は輝いている。素敵な年の取り方のヒントを、2人のジェントルマンに聞いた。

好きだからずっと続けられる

“アメリカン・トラディショナル”、いわゆるアイビー(IVY)・ファッションを日本に定着させた功労者のひとりが伊藤紫朗さんである。

ファッション・プロデューサー 伊藤紫朗氏

百貨店勤務時代、季節を問わず快適に着られる“イヤーラウンドスーツ”を考案し売り出したところ大ヒット。この実績が認められて1年間、海外での服飾研修が許された。

「ニューヨークに行き、紳士服の名店を視察したのですが、最も心がときめいたのがブルックス・ブラザーズの商品でした。控えめでありながらインテリジェンスが感じられる。伝統に裏打ちされた重厚さとともにスポーティーな雰囲気もある。自分の進むべき道はこれだ、と直感し研究を始めました」

1959年、54年前のことだ。この頃日本ではまだ、アメリカン・トラッドファッションは知られていなかった。帰国後、男性服飾誌『男子専科』などにその紹介記事を書いたところ大反響を呼ぶ。原稿依頼が殺到し、百貨店の仕事との両立が難しくなったため退職。服飾評論家になった。

石津謙介氏が創設したブランド「VAN」が注目を集め、日本でもアイビー・ファッションが流行し始めた時代。その道の専門家である伊藤さんを業界が放っておくはずはなく、ファッション・プロデューサーとしてトラッドブランド「NEWYORKER」や「JAX」の立ち上げに参加することになった。また、自らも「マクベス」というブランドを設立する。

82歳になった今も仕事を精力的にこなしている。5時半に起床。午前中は原稿や企画書を書き、午後は進行するプロジェクトの打ち合わせ。10時就寝。

「数年前まで打ち合わせを日に何件もかけもちしていましたが、さすがにくたびれちゃってね。今は1日2件にしています。それと仕事の相手が子どもみたいな若者ばかり。話を合わせるのが大変です」と笑う。

しかし、引退はまったく考えていない。

「服に対するときめきは54年前、ニューヨークを視察したときと変わりありません。今でも年に4回ほどニューヨークに行き、現地のトレンドをチェックしています。その傾向を知ることは日本での商品展開に役立ちますから。夜、寝る前に商品企画のアイデアが浮かぶことがあるんですが、そういうときは翌日が楽しみでワクワクします」