素敵な老後を送るためにはどうしたらいいのだろうか。

「とにかく好きなこと、生涯をかけて打ち込めることを見つけることだと思います。私は幸いアメリカン・トラッドファッションという仕事に結びつく大好きなものを見つけましたが、趣味でもいい。早い時期に情熱を傾けられるものを見つけることが一番ではないでしょうか」

今、伊藤さんにはふたつの目標がある。トラッド・ファッションの愛好家団体「アメリカントラッドクラブ」の顧問を務めているが、それを全国組織にすること。そして40年ほど前に運営していたブランド「マクベス」を再興することだ。

「独立してこの仕事を始めたのが1回目の東京五輪が開催された64年。そして今回、2回目の東京五輪が2020年に行われることになりました。これも何かの縁。次の東京開催までには、ぜひこのふたつの目標を達成したいと思っています」

好きなことがあれば、90代になっても輝いているはずだ。

生きていることを思いきり楽しむ

東京駅から電車で約30分という近い距離にもかかわらず、ここ船橋には漁港がある。東京湾の最も奥で巻き網漁を営む大野一敏さんは、東京湾の環境保全に尽力したことでも知られる。

船橋観光協会会長 大野一敏氏

「若い世代に言い残したいのは、腹をくくれということだね。人生は短い。あれもこれもやっている時間はない」

戦後日本の高度経済成長は東京湾の干潟を埋め立てた歴史でもある。東京五輪に前後して臨海部には工場や港湾施設が林立。

「人口は急増し、溢れるゴミ処理のために海は埋め立てられ、流域から流れ込む排水で東京湾は汚れていく。でも、目の前にある海から切り離されてしまっているから誰も関心を払わない。戦後、焼け野原になって皆が飢えていたとき、沿岸部の人がタンパク質を取ることができたのは、目の前の豊かな干潟が貴重な食料の供給源だったからなのに、みんな忘れてしまうんだ」

東京湾で魚が捕れるのか? 食べられるのか? 70年代後半、世間の常識は東京湾の漁業はなくなるというものだった。漁師を続けるため、そして海がこのままでいいわけがないと危機感を覚えた大野さんは猛勉強を始める。

食物連鎖の中で干潟や藻場など浅場の持つ重要性、生態系サービスの価値。そこで出合ったのがサンフランシスコ湾の保全を官民が一体となって図る「ベイプラン」だった。