NLDの圧勝という結果に終ったミャンマー。ここからは平和裡に権力移管を行うプロセスに入る。まずは正式な選挙結果が出た後、早期に、アウンサンスーチー女史と、テインセイン大統領、ミンアウンライン国軍司令官、トラシュエマン下院議長との会談が実現する。この会談において、権力移管、政権交代のための手続きや進め方が議論される。
現行の憲法において、アウンサンスーチー女史は、大統領(国家元首)にはなれない。かつての軍事政権が、彼女の大統領就任を阻む目的で作ったとされる憲法59条(国家元首の就任要件)が、本人や配偶者、子供が外国籍であったり、外国から何らかの恩恵を受ける立場にある場合は、国家元首の就任要件に欠け、大統領にはなれないと規定しているからである。従来よりNLDは、同規定の削除を求め憲法改正を訴えてきた。
今回の選挙結果を受けて、彼女は、「自らは大統領より上の存在になる」「新大統領には権限はなく、自らが政権運営を行う」と宣言した。この宣言は、現行の憲法の枠組みを超える発言であり、危険な発言である。立法府の議員は、憲法順守義務があり、それに抵触するおそれもある。彼女らしい支援者向けの強気のリップサービスだろうが、権力移行の過程においては、彼女はもう少し慎重な発言に徹するべきである。自身の四半世紀もの間の忍耐と挑戦を水泡に帰すことは、国民も望まないだろう。
さらに、真の民主化を実現するには、憲法59条の問題だけに止まらず、軍に特権を認めている他の憲法上の規定も改正されなければならない。既に多くのメディアが報じている通り、立法府(連邦議会)の4分の1が予め軍人の固定席になっている(憲法436条)。憲法改正の決議要件である4分の3以上の賛成を得る上で、この軍人固定席の4分の1が大きな障壁になっている。現在のミャンマー連邦議会は、上下院の二院制(上院224名、下院440名)、両院の25%が軍人の固定席であり、上院では56名、下院では110名が軍人議席となっている。真の民主化を実現するためには、この規定の廃止こそ最優先でなされなければならない。