「人権外交」から「現実路線」へ
これまでのミャンマーでは、アメリカの人権外交の象徴として、スーチー女史が西側の支援を受けながら、ミャンマーの民主化を導く形で国民からの支持を得てきた。しかし、民政移管後のミャンマーにおいては、その手法は今後長くは続かないだろう。民主化以降のミャンマーにおいて、国内の様々な政治課題を、具体的にスーチー女史が解決した明確な実績は今のところない。今までのように軍部批判をすれば国民の支持を得られる段階は、ミャンマーではすでに終焉している。
このような情勢の下、このところのスーチー女史の発言と行動が、大きく現実路線へ転換している。単に、軍部批判や自由と民主主義を叫ぶのではなく、国内政治課題の解決において、自らの政策と解決方法を、国民に示す必要に迫られてきているのだ。
歴史上、ミャンマー国内の政治課題として大きな問題は、少数民族紛争問題である。ミャンマーには、136もの少数民族がいる。現政権はこの少数民族問題に関し、積極的に取り組む姿勢を示し、昨年はカレン族と停戦合意に至り63年にも及んだ紛争が終結した。最後の紛争対象であるカチン族との停戦合意についても目途も付いたとの報道もあるが、依然予断は許さない状況だ。少数民族問題が再熱すれば、せっかく外資の参入気運が高まっている状況に水をさすことは間違いない。
今までのミャンマーにおいては、国軍という国家の統治機構をうまく活用しその抑止力があったからこそ、多数の少数民族との共存秩序を維持できてきた。軍部批判を繰り返し行ってきたスーチー女史も、ここにきて軍部との関係改善を図る動きを積極的に見せているのは、2015年以降、自らが大統領に就任した後も、この少数民族紛争を秩序ある形で統治するには国軍との協力関係が不可欠であることを認識してのことであろう。実際に最近はスーチー女史と軍部関係者の会談が増えてきている。