【田原】どうして日本人に声をかけたんだろう?

【袴田】「Google Lunar XPRIZE」に参加するには、3つのコンポーネントが必要です。1つ目は打ち上げ、2つ目は月面への着陸船、そして最後の1つが月面で動かすロボットです。ヨーロッパのチームは着陸船のエンジニアが中心で、ロボットのエキスパートがいませんでした。また、このレースに参加するには50億~100億円かかるといわれていますが、ヨーロッパのチームは資金集めに苦労していた。それで日本と共同でチームを組み、ロボットの技術や資金を補おうとしていたわけです。

【田原】そのチームに加わったと。

【袴田】そうです。自分に話がきたのは運命なのかなと思いまして。

【田原】チームで、袴田さんは何をやるのですか。

【袴田】ロボットに関しては東北大学の吉田和哉教授に協力を要請していて、私はお金の調達をやりました。当初の計画では、トータルで50億円、日本側で20億円以上集めることになっていました。当時は会社に相談して、週に3日は会社の仕事、残りは宇宙のプロジェクトという生活でした。

【田原】ところが、途中でヨーロッパチームと離れて、日本だけでチームをつくった。これはどうして?

【袴田】ヨーロッパ側がお金を手配できず、13年の頭に解散してしまったのです。撤退するという選択肢はありました。でも、いま撤退すると絶対後悔すると思いました。やめるのは、すべて投げ出して100%コミットしてからでも遅くない。そう思って会社を辞め、チーム「HAKUTO」を立ち上げました。

田原総一朗
1934年滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
【関連記事】
不安な時代だからこそ、宇宙のロマンにふれる
大願を追い続けた「なんとかなるさ」の11年 -宇宙飛行士・山崎直子氏
秋山豊寛―宇宙に行くと世の中の見方はどうなる
『面白いほど宇宙がわかる 15の言の葉』