「イスラム人」は存在しない

イスラム教徒のことを「ムスリム」と呼ぶが、現在、ムスリムが最も多く住んでいる国は、意外にもインドネシアである。以下、2位がパキスタン、3位インド、4位バングラディッシュと続く。

中国のウィグルや新疆などにも数千万人ものムスリムが居住しているし、マレーシアやブルネイ、フィリピン南部、タイの南部、ミャンマー北部にもいる。

つまり、「イスラム世界」=「中東」ではない。中東地域だけではなくアジア地域にも多くのムスリムがいるのである。現在、世界のイスラム教徒の人口は約16億人であるが、近い将来世界の3分の1の人口を占めると言われている。私たちは、この事実を軽視してはならないだろう。

1971年にはムスリムが多い国々による『イスラム諸国会議機構(OIC)』が発足している。これはイスラム圏の国連とでも呼ぶべき組織で、加盟国は50か国超。さまざまな分野における交流や連携を行っており、アジア地区ではマレーシアとパキスタンが加盟している。

なお、各種メディアの中には「イスラム人」という呼称を使用しているところもあるようだが、そんな言い方は存在しない。イスラムを信仰する人という意味合いで用いるのであれば、あくまでも「ムスリム」と表現すべきである。

※本連載は書籍『面と向かっては聞きにくい イスラム教徒への99の大疑問』(佐々木 良昭 著)からの抜粋です。

佐々木 良昭ささき・よしあき)●笹川平和財団特別研究員。日本経済団体連合会21世紀政策研究所ビジティング・アナリスト。1947年、岩手県生まれ。19歳でイスラム教に入信。拓殖大学卒業後、国立リビア大学神学部、埼玉大学大学院経済科学科を修了。トルクメニスタン・インターナショナル大学にて名誉博士号を授与。1970年の大阪万国博覧会ではアブダビ政府館の副館長を務めた。アラブ・データセンター・ベイルート駐在代表、アルカバス紙(クウェート)東京特派員、在日リビア大使館渉外担当、拓殖大学海外事情研究所教授を経て、2002年より東京財団シニアリサーチフェロー。2014年からは経団連21世紀政策研究所ビジティング・アナリストに就任。
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