「ビジネス」ではなく「商い」

『面と向かっては聞きにくいイスラム教徒への99の大疑問』佐々木良昭著 プレジデント社刊

アラブに進出する日本の大手企業は、ODA(政府開発援助)がらみで官民一体となった案件の獲得にターゲットを絞っている。そのため、最近は、日本のビジネスマンがアラブに出向き、ハードネゴシエーションをして仕事をとってくるようなケースは稀である。

ただし、ODAの仕事に絡めない中小の商社やメーカーは生き延びるために、「タイヤ500本」「電気釜1000個」といった少ロットのビジネスをせざるを得ない。売り込み先は政府だけでなく、現地の零細企業や個人商店が対象となるため、そちらの世界ではハードネゴシエーションは健在だ。

その一人で、私の知り合いであるエジプト・カイロ在住の日本人ビジネスマンに言わせると、アラブでビジネスを成功させるために必要なのは、まずは「日参」だということになる。

日参を繰り返すことによって顔を覚えてもらい、「こんな品物があるんですけど。いくらいくらで……」と、持ちかけると、「そりゃ、高いよ!」とくる。「じゃあ、ちょっと考えてもう1回来るから……」。

そんな感じで日参を繰り返しているうちに情が通じて、互いの妥協点に達し、商談が成立するという昔ながらの商売のパターンだ。

アラブのビジネスマンは高価なスーツを着て、金色のロレックスを腕にはめ、英語を流暢に話す者も少なくない。

だが、彼らが生活している世界はたとえて言えば戦後の日本であり、まだまだ人情や情緒が色濃く残っている。日参することにより、「あいつ、このくそ暑い中、よく通ってくるよな」と、その人情の部分に訴えることができるわけだ。

ビジネスというより、「商い=飽きない」なのである。