「声が大きい」「よく笑う」「小太り」

あれは、私がリビアの大学に留学していた1970年代初頭のことだが、新潟県の燕三条から、大きなバッグにナイフ、フォーク、スプーンを詰めて売り込みに来ていたセールスマンがいた。

偶然その人に出会って、話を聞くことができたのだが、「どうやって売ってるんですか? アラビア語でやってるんですか?」そんな質問をしたところ、「いやあ、アラビア語なんてできませんよ。英語だって満足にしゃべれません」という返事が返ってきたのを覚えている。

彼は、品物のロット番号入りの価格表を持参していて、現物の商品と価格表を交互に指さしながら、「これがこうで」「こっちはこれ」と日本語で交渉していたようだ。それも、暑い中、汗をだらだら垂らしながら、街中の個人商店を飛び込みで回るという古風なスタイルの商いだ。

「それで、ちゃ~んとお金払ってもらえるんですか?」。そう問いかけると、「もちろんだよ!」と力強く頷いていたのを思い出す。

中小の会社のビジネスマンの中には、同様の商いをしている男たちが、少数ではあってもいるはずだ。

私が見聞した範囲でいえば、この種のタフネゴシエーターには、俳優の西田敏行をもう一回り豪胆にしたようなタイプが多い。とにかく声が大きく、明るくて、「ガハハ」とよく笑う。そして、小太りだ。

アラブ地域では、今でもそんなタイプの日本人ビジネスマンが好印象を与えるようだ。

※本連載は書籍『面と向かっては聞きにくい イスラム教徒への99の大疑問』(佐々木 良昭 著)からの抜粋です。

佐々木 良昭ささき・よしあき)●笹川平和財団特別研究員。日本経済団体連合会21世紀政策研究所ビジティング・アナリスト。1947年、岩手県生まれ。19歳でイスラム教に入信。拓殖大学卒業後、国立リビア大学神学部、埼玉大学大学院経済科学科を修了。トルクメニスタン・インターナショナル大学にて名誉博士号を授与。1970年の大阪万国博覧会ではアブダビ政府館の副館長を務めた。アラブ・データセンター・ベイルート駐在代表、アルカバス紙(クウェート)東京特派員、在日リビア大使館渉外担当、拓殖大学海外事情研究所教授を経て、2002年より東京財団シニアリサーチフェロー。2014年からは経団連21世紀政策研究所ビジティング・アナリストに就任。
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