カイロ大学日本語学科の教材は『男はつらいよ』

エジプト・カイロ大学の日本語学科と言えば、これまで数多くの日本研究者を輩出してきたアラブ地域における日本研究のメッカだ。

『面と向かっては聞きにくいイスラム教徒への99の大疑問』佐々木良昭著 プレジデント社刊

ここでは、教材の一つとして映画『男はつらいよ』を使用している。主人公・フーテンの寅の情の細やかさと、ファミリーの強い絆が共感をもって受け入れられているようだ。ただしこの映画は、一般には公開されてはいない。

テレビ番組でいえば、なんと言ってもNHKの朝の連続テレビ小説『おしん』が特筆されよう。最初に「おしんブーム」が起きたのはイラン・イラク戦争(1980~1988年)時のイランで、イラン国営放送で放映されると最高視聴率90%を記録した。

おそらくは、「オレたちは戦争で大変な思いを味わっている。しかし日本にもあんなしんどい思いをして、最後には幸せになった女性がいたのか!」ということで、共感を呼んだのだと考えられる。

同じくイランではアニメ『キャプテン翼』が大ヒット。バスターミナルや空港の国際線ターミナルのテレビでも放映され、大人から子供まで黒山の人だかりだった。

背景にはアラブ・中東圏のサッカー熱がある。とくにイラン、イラク、トルコ、サウジアラビア、カタール、エジプト、バハレーンなどではサッカーが盛ん。路上でもボールを蹴っている子供や青年の姿をよく目にする。そして、国の代表同士が戦う国際試合ともなれば、サポーターの間で流血騒ぎが起きるほど熱くなる。

イランに行って、『おしん』、『キャプテン翼』と言えば、今でも通用するはずだ。

書物では、アラブ圏ではエジプトのハサネイン・ヘイカルというベテランジャーナリストの作品が、よく知られている。

著者は元エジプトの情報大臣で、ナセル大統領のスピーチ原稿を書いていたという経歴の持ち主だ。彼のポリティカルな小説は幅広い層に読まれている。その多くは、政治的な不満に対して、最後にアラブ人の怒りが爆発するというストーリーだ。