いずれイラクは旧ユーゴスラビアのように分裂する

イラク情勢が混迷を極めている。今年に入ってイスラム教スンニ派系の過激派組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」がイラクに侵攻、西部、北部の都市を制圧しながら首都バグダッドに向けて進撃した。対してイラク政府軍も反攻作戦を展開し、各地で激しい戦闘が続く。

ISILはアルカイダをはじめとしたスンニ派系の武装組織が合流を重ねて出来上がった組織で、その名の通り、イラク、レバント(東部地中海沿岸部)地域でのスンニ派イスラム国家の樹立を目指している。それまではシリアでの反政府活動が主だったが、アサド政権の抵抗が強硬なために、政情が不安定なイラクに転じて攻勢をかけてきたのだ。すでにナイジェリアで女子生徒を200人以上誘拐して悪名を上げたボコ・ハラムが支持を表明したと言われている。

イラクではイラク戦争後の2006年5月に新政府が発足し、マリキ政権がスタートした。しかしマリキ首相はイスラム教シーア派で、政権の主体もシーア派が大勢を占めている。つまり、シーア派のマリキ政権に対して、スンニ派のISILという宗教対立の構図が根底にあるのだ。

スンニ派の独裁的指導者サダム・フセインを排除してイラクに混乱をもたらしただけのアメリカとしては、正当政府のマリキ政権をバックアップする責任がある。しかしシーア派主体のマリキ政権ではイラクをまとめ切れないとアメリカは見ていて、軍事支援も最大300人の軍事顧問団を派遣するだけでなく、マリキ首相の退陣を迫っているとも言われている。対してイラク支援に積極的なのがロシアで、兵器や戦闘機をすでにイラク政府に供与している。ロシアはイラク国内に石油権益を抱えていて、それらを守る必要があるからだ。

隣国シリアではアサド政権を非難するアメリカと擁護するロシアで立場は大きく異なる。しかし、イラクでは両国が一致してマリキ政権を支援するという“ねじれ現象”が起きている。もっと言えばシリアのアサド大統領はシーア派の一派であるアラウィー派であり、スンニ派のISILを掃討するためにイラクとの国境付近を空爆しているし、シーア派国家のイランはマリキ政権を支援するために自国の部隊を派遣している。つまりイラク情勢を巡ってはアメリカ、ロシア、シリア、イランがシーア派系支援で呉越同舟の状態になっているのだ。